容疑者の顔を見て「本当に何も感じなかった」

 翌日以降、伸子さんは憔悴した両親のもとへ毎日通った。ネットやテレビでは事件が繰り返し報道され、容疑者の男の顔や自宅などが報道されていたが、伸子さんはその顔を見ても「憎しみを感じなかった」という。

 「兄が亡くなった事件では、本当に何も感じなかったんです。そして今でも私は、容疑者のことをなんとも思っていません。」そのときの感情の不在は、いまだに伸子さん自身が不思議に思う、と振り返った。

受刑者に自身の体験を話す

 一連の話は、伸子さんが2025年3月に大阪の刑務所で講演している内容だ。

 事件で兄を失った伸子さんは、あの日起きたことを振り返り、大勢の受刑者らに自身の体験を伝えている。いま伸子さんは、被害者遺族の立場で「元加害者を支援する」という道も歩んでいる。

 なぜこうした活動を選ぶようになったのか、伸子さんは順に受刑者らに伝えていく。