司会者発言に政権が猛反発し番組が放送中止に

こうしたトランプ氏や支持者の姿勢を皮肉を交えて取り上げたのがABCテレビの深夜の人気トーク番組「ジミー・キンメル・ライブ!」だ。アカデミー賞の司会も務める人気コメディアンのジミー・キンメル氏がホストを務めるこの番組では、番組冒頭で時事問題を取り上げ、その時々の大統領に対しても辛辣な批判を加えている。

同じく時事批評を含む深夜のトーク番組はNBCとCBSでも放送されていて、アメリカ国民にとっては取っ付きづらいと思われがちな政治問題に気軽に親しむ機会ともなっている。

人気コメディアン ジミー・キンメル氏

9月15日放送の同番組で、司会者のキンメル氏は、「トランプ氏の支持層であるMAGA派は、容疑者を自分らの仲間じゃないことにしようと必死で、事件から政治的利益を得ようとしている」と発言した。

キンメル氏にとってはいわば「いつも通り」の発言だ。しかし、この発言がMAGA派、そしてトランプ政権幹部の強い反発を招き、トランプ氏による“免許取り消し”発言につながっていく。

番組放送から2日後。放送業界を所管するFCC=連邦通信委員会のブレンダン・カー委員長は保守系ポッドキャスターの番組に出演し、「あの司会者は、(容疑者が)MAGAや共和党員の影響を受けているという噂を煽ろうとした。本当にひどい話だ。放送局に対して私たちが取れる措置はある」とけん制。

FCC ブレンダン・カー委員長

さらに、「ABCは簡単な道を選ぶこともできるし、困難な道を選ぶこともできる」と述べた。「放送免許取り消し」の言葉こそなかったものの、意図するところは明らかに免許取り消しだ。

ABCテレビ、さらにその親会社であるウォルト・ディズニーに衝撃が走った。両社の対応は素早いもので、カー氏の発言から数時間後にはディズニーがキンメル氏の番組を無期限で放送中止にすると発表。大手メディア企業が争う姿勢も見せず、政権からの露骨な圧力に屈した形になった。

その日、トランプ氏はSNSへの投稿で「アメリカにとっての朗報だ」と“勝利”をアピール。翌日には冒頭で紹介した通り、報道陣を前に“放送免許取り消し”に言及し、カー委員長の対応を全面的に支持する姿勢を示した。