2人を生かしたそれぞれのチーム戦略

伊澤はスターツの過去最高順位の2位に、小林は大塚製薬のクイーンズ駅伝出場権獲得に、ともに大きな貢献をした。

スターツのレース前の目標は優勝だった。弘山勉監督は「伊澤という大砲がいるおかげで、高い目標を掲げることが可能になった」と躍進の理由を説明する。優勝は新年度が始まるときに、選手たちが立てた目標だった。

「高い目標になったら、やらないといけないことが一段階、二段階レベルアップします。
具体的に言えば伊澤が3区でトップに立ったとき、他のメンバーも5000mの15分台の力がないと優勝はできません。目標が入賞だとその辺があやふやになってしまいますが、優勝しようと自分たちで決めたことで、覚悟を決めて練習に取り組んだと思います」

1、2区で三井住友海上に1分01秒差をつけられたが、大砲の伊澤がそのマイナスを予定通りにゼロにもどした。5区は区間14位、6区は区間13位だったが、順位を落とさない走りをしっかり見せた。

一方の大塚製薬は「小林の回復を優先した」ことが、クイーンズ駅伝出場権につながった。

大塚製薬は10年前にも伊藤舞(現コーチ)が、北京世界陸上マラソンで7位に入賞した。だが今回と同じように、チーム状況が悪い状態でプリンセス駅伝(第1回大会)に臨んで17位。クイーンズ駅伝出場切符を7秒差で逃している。伊藤にエース区間の3区を託したが、区間15位で順位を16位まで後退してしまった。

「伊藤を駅伝に向けて無理をさせすぎました。あの年は世界陸上からプリンセス駅伝まで2か月あったこともあって、合わせられると思ってしまったんです。結果的に伊藤は(疲労がとれず)まったく動きませんでした。その反省もあって今回は、一度はクイーンズ駅伝出場を諦めました」(河野監督)

小林は回復を優先した練習メニューを組み、結果的にレース前最後のポイント練習を見た河野監督が、小林の5区など全体の区間配置を決めた。チームもクイーンズ駅伝に出なくていいと考えたことで、プレッシャーを感じずに走ることができた。「16番以内に入ることを考えたら、この方法があるかな、という区間配置をして、それが上手くはまりました」。小林に無理をさせないことで小林自身もチーム状態も、良い方向に向かった結果、10位と予想以上の順位でクイーンズ駅伝出場を決めた。

クイーンズ駅伝でも伊澤は3区の可能性が高い。1、2区の選手がプリンセス駅伝よりも好走すれば、伊澤で3位以内に浮上できるかもしれない。「去年のチームはメンバーの数がギリギリだったこともあって、クイーンズ駅伝に出ることが決まって満足してしまったところがありました。今年はクイーンズ駅伝で結果を残すことを目標にしてチームの雰囲気も変わりました」(伊澤)

小林も昨年と同じ3区に出場するだろう。棚池は5区と思われるので、1区の選手の頑張りがあれば、小林でクイーンズエイト圏内に上がる展開も期待できる。「10kmは自分のメインの距離ではありませんが、クイーンズ駅伝はもっと力のある選手が出てくるので、強い選手に10kmでも勝負できるようにしていきたいと思います」(小林)

エース区間の戦いは、プリンセス駅伝の比ではないほど激しくなる。そこで伊澤と小林が力を発揮すれば、チームはクイーンズエイト争いを展開できる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)