落合晃(19、駒大1年)が高校卒業1年目で東京2025世界陸上に挑戦する。落合は昨年高校生ながら日本選手権男子800mに優勝し、インターハイでは1分44秒80と日本人初の1分45秒切りをやってみせた。驚くべきは一昨年の時点ですでに、パリ五輪代表入りを狙っていたこと。今季も3大会で1分45秒台を出し、日本選手権は2連勝。安定した強さでこの種目14年ぶりの代表を決めた。必ずしも世界に近い種目ではない男子800mで、どんな取り組み方をして世界を目指す選手になったのだろうか。滋賀学園高・大河亨監督に落合の高校時代の取り組みを振り返っていただいた。

高校2年時から本気でパリ五輪を目指していた

男子800mは世界から少し距離がある。
23年までの日本記録は1分45秒75。14年に川元奨(32、スズキ)が、21年に源裕貴(25、NTN)が出したタイムだが、世界記録とは4秒64差があった。世界陸上に出場した日本選手は、11年モスクワ大会の横田真人が最後(五輪は12年ロンドンの横田、16年リオデジャネイロの川元が出場)。

それでも落合と大河監督は本気でパリ五輪を狙っていた。昨年6月の日本選手権で高校生優勝を、それも1分45秒82の高校新で達成しながら、落合の悔しがり方は半端ではなかった。5月の静岡国際で、1分46秒54の高校新(当時)を出したことでパリ五輪を目指し始めたと思われたが、大河監督によれば高校2年時からだったという。

「2年の札幌インターハイに1分47秒92(当時高校歴代3位)で優勝して、次は何を目指すか落合と考えました。パリ五輪の参加標準記録が1分44秒70です。20歳を超えた選手が3秒縮めるのは大変ですが、高校生なら1年で3秒縮められるやろ、と。シニア選手もオリンピックを狙うと思ったので、そういったシニア選手が特別遠い存在と思わず、彼らに挑戦することでオリンピックにも挑戦できると考えました」

周囲からは8割方無理だと言われたが、2人とも無理という言葉は絶対に口にしなかった。

「指導の中で夢を持って、あきらめずに取り組むことの重要性を強調しています。端からできないと決めつけず、努力を続けた落合は素晴らしかったですね。落合のチャレンジは校内にも良い影響を及ぼしました。進路を決めるときに下を見るのでなく、上を目標にする生徒が増えました。甲子園に出場した野球部の生徒も、落合が日本選手権で悔しがっている姿を見て、学ばないといけない、と話していました。相乗効果が滋賀学園内に起きていたと思います」

大河監督は教育者として五輪挑戦を重視したが、今年の世界陸上を目指して選考会などを乗りきる際にも、昨年のパリ五輪を本気で目指した経験が役に立った。