■「岸田はもう終わった」
岸田氏はこれまで、“決められない男”、“岸田はもう終わった”などの批判がつきまとってきた。
安倍政権下の2020年4月、政調会長だった岸田氏は、新型コロナの緊急経済対策として、政府が講じた“10万円給付”の政策責任者だった。しかし公明党などの反対で、一度決定していた“所得制限付きの30万円案”から“一律10万円給付”に覆る事態に。大きな混乱が生じ、“30万円給付案”を主導した岸田氏に対して“決められない男”との声が相次いだ。
さらに、7年8か月という長期政権となった安倍元総理の退陣に伴う2020年9月の総裁選。岸田氏は、安倍政権で要職も数々歴任し、安倍氏とは当選同期の関係でもある。「ポスト安倍」として、いわゆる“禅譲狙い”とも見られていたが、安倍氏が後継に選んだのは、菅前総理だった。岸田氏は、去年の総裁選に出馬するも、大敗。“無役”となった。
「岸田は終わった」
こんな言葉が飛び交った。
しかし、岸田氏の“闘志”は、この2020年の総裁選での敗戦の時からもう始まっていた。木原氏は振り返る。
「岸田新政権の発足は、岸田総理が必ず次も出馬するんだということを、ご自身の心の中に持ち続けていたということが1番大きかった。去年の総裁選以降、派内でいくつもの勉強会を行い、着々と準備を進めてきました」
総裁選の翌月に行われた宏池会(岸田派)のパーティーで岸田氏は「宏池会を“政局”で戦闘能力を持つ集団に進化させる」と宣言。岸田氏にとって、得意ではないとされてきた“政局”を意識した発言だった。そして、岸田氏は、派閥の事務局長に木原氏を抜擢。当時当選3回の村井英樹氏(現総理補佐官)や小林史明氏(現デジタル庁副大臣)ら、数多くの派内の中堅・若手の議員らと、次の総裁選に向けた戦略を練ることに着手した。
■お膝元・広島での敗北 二階氏との“確執”も
岸田氏の試練は続いた。
2021年4月、お膝元の広島で、河井夫妻による大規模買収事件を受けた参議院広島選挙区の再選挙が行われた。自民党にとっても、岸田氏にとっても、“絶対に負けられない戦い”だった。岸田氏は、自ら広島県連会長を引き受けて地元に張り付き、陣頭指揮を執った。しかし、結果は、自民党候補の敗北。岸田氏は、地元・広島で、自民党への信頼失墜の大きさを痛感することとなった。同時に、この選挙での敗北は岸田氏自身も総裁への道がさらに遠のいたと見られ、まさに窮地に追い込まれたといってよかった。
選挙で絶大な力を持つのは、幹事長だ。再選挙での敗北直後、岸田氏は、険しい表情で二階氏の部屋を訪れ、「政治とカネ」の問題について党としての責任をしっかり果たすよう、強く求めた。岸田派の幹部は「岸田氏と二階氏は、“因縁の関係”だ」と語る。