ドラマが描く「戦争」のリアリティ
田幸 「晴れたらいいね」(テレ東)もおもしろい企画でした。現代の看護師が戦時中のフィリピンにタイムスリップする話ですけど、しっかり従軍看護婦の物語を描いていました。戦後80年の今年、戦争を描く作品を民放がやるのはとてもいいことだったと思います。
倉田 戦争を知らない世代が大多数を占める中で、戦争の怖さ、つらさ、悲惨さをきちんと伝えなくてはなりません。報道によって過去の事実を伝えることも大切ですが、ドラマや小説を通して、それに触れた人の想像力をかき立てることも戦争の抑止に大きく貢献すると思います。
影山 「あんぱん」(NHK)も餓死寸前の場面など、戦争の悲惨さを思い切ってシリアスに描きました。一方で、朝からそういうつらいものは見たくないという声も多かったと聞きます。
しかし、やなせたかしさんの生涯を描くときに、戦争の悲惨さと実体験をきちんと描かないことには、その後の説得力につながらないんです。悲惨なものを正面から描くことはエンターテインメントにとってとても大事です。その意味でテレ東も頑張って放送に結びつけたと思います。
NHKは「あんぱん」で日本人兵士が中国人の男の子に殺されるという回とリンクさせて「チリンの鈴」というアニメを放送しました。やなせさんの原作です。オオカミに母親を殺された子羊の「チリン」が強くなりたいと願ってオオカミに弟子入りする。その結果どんどん強くなって、角まで生えてくる。さらにチリンはオオカミに、かつての仲間を殺すように命じられる。そこでチリンは、ハッと思ってオオカミを殺す。これは「あんぱん」とリンクしています。
田幸 NHKは、力を入れているドラマ放送時に教養番組やドキュメンタリーなど、ジャンルを超えた関連番組も同時期に放送する仕組みを編成が作っていて、うまい手法だと思います。
「あんぱん」ほど長く戦争を描く朝ドラはこれまでありませんでした。でも、戦争編に入ってからの方が視聴率は伸びているそうなんです。
朝から暗いものを見たくないという声はありますが、一方で、戦争をちゃんと描いていることを知って戦争編から見始めた方も結構いる。戦争をしっかり描くことが視聴率を含めて評価されているとなると、暗いものは見たくないというのが覆って、今後の朝ドラに影響を及ぼすんじゃないかと思います。
倉田 「虎に翼」(NHK・2024)がそうでしたが、朝ドラを全然見ない人が「虎に翼」だけは見るということがありました。今回もやなせさんのドラマだからと見始めたんだけど、それだけではなく戦争をしっかり描いていることを評価して見続ける人もいる。ふだんは朝ドラを見ない新しい視聴者を獲得しているように感じます。














