2025年4月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が熱く語る。様々なドラマを見てきたライターが驚いたドラマの結末と、視聴者のリアクションとは?         

なぜ若者がハマった?「波うららかに」

影山 「波うららかに、めおと日和」(フジ)からいきましょう。

田幸 原作も読んでいたんですが、戦前の昭和を描いた作品を民放でドラマ化するのは新たな鉱脈だと思いました。民放でこの時代を扱う作品があまりなかったのは、視聴者にとって、ちょっと遠くて共感しづらいんじゃないかと制作側が考えていたのかもしれません。

しかしこの作品は多くの支持を得ました。なぜ受け入れられたかというと、そこには現代の恋愛ドラマを作る上での障壁がかかわっていると思います。携帯など便利なツールが登場して以来、恋人たちの「すれ違い」がなくなったことで、恋愛ドラマを作りにくくなったとはかねて言われてきました。そんな中、工夫しつつ他の障害をつくってきたのが最近の恋愛ドラマです。

そこで、じゃあ時代を変えて、携帯がない時代を描けばいいんだということになったわけですね。それが新鮮な恋愛の物語として若い人に響いた。私たちも昭和的な懐かしさを感じることができて、どちらの層にも受けた。

倉田 二人の関係がなかなか進まなくて、ヤキモキしながら見ていました。すれ違いがなくなったという話が出ましたが、すれ違うからこそ、今あの人は何をしているんだろう、何を考えているんだろうとか、いろいろな気持ちが生まれる。相手のことを考える時間は会えない分だけ増えるわけで、そういう時間を持つことへのあこがれが、見ている人にはあったのかもしれません。

田幸 結婚式には夫が仕事でいなくて写真だけ、そんなところからお互いを知って、好きになっていくすごくピュアな物語でした。夫は海軍なので、基本は家にいない。なかなか会えないからこそ、一緒に御飯を食べるという当たり前の日常の尊さが描かれる。それは、私たちがコロナの時に体験した、当たり前のことがいつできなくなるかわからない、会いたい人に会えなくなることがある、その記憶と重なり合います。

芳根京子さんがいいです。この作品のヒロインはあまりにも純粋で、恋愛や男の人のことを知らなすぎるキャラクターですよね。こういうヒロインは、うまくやらないと、わざとらしく、あざとく見えてしまうんですが、芳根さんがやると本当に嫌味がない。

影山 芳根さんは「明るい不器用さ」を表現させるとピカイチですね。ほっこりさせるというのか、それが本当にうまい。僕が彼女で一番好きなのは「チャンネルはそのまま!」(北海道テレビ・2019/2020、新人テレビマンの奮闘記)です。明るい不器用さそのままで、彼女の持ち味が生きていた。この作品でもそれが生きていて、何か笑えちゃうというか、微笑ましいというか。それから、本田響矢さんがとてもよかった。

田幸 若い人の反響を見ると、本田さんのファンがすごく増えていて、そこからドラマ視聴に次々と入ってきています。やっぱり入口になれる人をうまくキャスティングするのは大事ですね。

本田さんは朝ドラにも出られていて、いろいろ拝見してはいましたが、世間の人みんなが顔と名前が一致する感じではありませんでした。そういうある意味、手垢のついていない人を二番手に置いて、その役者さんと役柄と作品がうまくマッチすると、こんなにも、恐らくつくり手が予想しないところまで勢いがでるんだなと思いました。

倉田 芳根さんが本田さんに与えた影響が大きいような気がします。私も本田さんは、お顔を見れば、ああ、あれに出ていたなというのがわかるぐらいで、私の中では比較的目新しい俳優さんだったんです。

影山 そういう方が多かったと思います。

倉田 その中で、最初はあまり顔に表情がない。もちろん演技ですけれど「この俳優さん、どんな俳優さんなんだろう」と思っていました。それが、芳根さんと夫婦になって、だんだんいろんな表情を見せてきて、あっ、こんなにすてきな表情ができる俳優さんなんだという気づきが出てきた。

それも多分、芳根さんが相手だったから出せた表情なのかな、というのは勝手な邪推ですけれど、そういうふうに感じさせるだけの力が芳根さんにあると感じました。

田幸 最初は何を聞いても無表情で「問題ないです」と言っていたのに、芳根さんに引っ張られてどんどん表情が柔和になっていく。距離も近くなって、いろいろな感情表現ができるようになって、人間としても成長していく。役者としてのリアルな成長ぶりも、この作品の中で見られる感じがします。

若者のドラマ離れと言われますが、この作品に関しては、20代の方、若い人からすごく反響がありました。私の娘は24歳ですが、娘の周りでもこのドラマにはまっている人が多かった。若い人がリアルタイムでこんなに夢中になるのは大きな功績だと思います。

影山 私は女子大の教員をしていますが、圧倒的人気ドラマでした。他を寄せつけない。学生の方から「キュンキュンします、先生、見てますか」と言ってくる作品は何クールもなかったんじゃないかと思います。

ドラマ離れ、特に恋愛ドラマ離れということが言われて結構たちますが、教え子は「私たちが恋愛ドラマから離れているんじゃなくて、私たちが魅力的に思う恋愛ドラマがないだけ」と言うんです。言い得て妙です。「波うららかに」のようなストーリーを若い人たちは待っていたんだということを強く確認できましたね。

フジテレビは厳しい時代が続いていますが、いい番組で視聴者に訴える図式が徐々にできていると思うんです。抱えている問題は問題として、現場がこうしたすばらしい作品をつくっていることは、僕はメディアでフジに対して厳しく言っていますけれど、評価したいと思います。