「誰かいい案ないですか」拡散された投稿に次々と だが……

考えている最中に、普段使っているSNSのThreads(スレッズ)にも不安な気持ちを書き込んでいた。

「新幹線で福岡の久留米に来た…きょう大学の入学式があるんだけど、私が息子のスーツを持ってくるの忘れた涙 どうしよう、誰かいい案ないですか。スーツ上下とネクタイがない涙」(ゆまさんの投稿)


ゆまさんは書き込んだ理由を、励ましてもらいたかったと話す。「頭はパニックで泣きそうだし、仲のいいフォロワーさんがもし起きていて、応援のコメントをとひと言もらえたら頑張れる」そんな気持ちで書き込んだSOSだった。

深夜だったが、この投稿に返信がだんだん増えていった。投稿は拡散されて、普段やりとりしているフォロワーだけでなく、全く知らない人からの返信も増えていった。

「久留米駅の近くにドン・キホーテがあります」
「ホテルにスーツレンタルないですか?」
「久留米のゆめタウンが朝9時から営業しているようです」
「西鉄久留米駅のデパートに紳士服売り場があります 朝一番で行ってみては」
「大事なもの忘れること、私もあります。頑張って!」
 ……

数々なアイディアや励ましの言葉が並んでいた。しかし、中には忘れ物をしたゆまさんを激しく責めて中傷する書き込みもあった。

もちろん100%悪いのは自分だ。とはいえ、キツイときに強い言葉を投げつけられ、思ったよりこたえた。涙が出そうになったが、息子の前では我慢した。

アドバイスをもとに調べてみると、久留米のドン・キホーテは午前3時ごろまでやっている。すぐに向かおうとタクシー会社に電話したが、「全然だめ。」

20社ぐらいかけたにも関わらず、「今の時間は運転手がいない」といずれも断られた。

店は往復18kmほど離れているから息子の自転車では厳しい。スーツがあるかもしれない深夜営業の量販店をほかにも教えてもらったが、自転車では距離があった。

そうしている間に時間はどんどん過ぎ、午前2時を回っていた。入学式まで8時間ほどだ。

もう朝一番で教えてもらったショッピングセンターに行って、即着替えてそのまま大学へ行こう。入学式には間に合わないだろうけど、午後からのオリエンテーションには行けるはずだ。それしかない。考えても調べても、今できることはもう何もなかった。

息子にも「もう寝なさい」と言って、ゆまさんも心を決めて横になった。