絶望…スーツを忘れた母「息子の前で泣いちゃいけない」
その瞬間、ゆまさんは「絶望した」という。いつもは用意周到で、忘れ物はしないタイプだ。今回も自分の服とかピアスとか「どうでもいいもの」は持ってきたのに、息子のスーツとネクタイだけが抜けていた。
黙っているゆまさんを見て、息子は「ええっ」と絶句し、「もしかして…」と言葉をのんだ。
血の気が引くのが分かったが、息子を不安にさせたくなくて、「ちょっと待って大丈夫。考える、考える」と口だけが動いた。時間はもう4月5日午前0時を過ぎている。入学式は10時間後だ。
「大丈夫!大丈夫!どうにかする、どうにかする」そう繰り返したのは、自分を落ち着かせるためだった。頭には何も思い浮かんでいかなかった。
息子は、がっかりした表情を浮かべ、「どうにもならんやろ」と言ったきり黙った。
まだ責めてくれたほうが良かった。4人きょうだいの長男は「お兄ちゃんだから」という理由でなにかと我慢をさせてきた。甘えたい盛りに甘えさせてあげられなかった。だからこそ大学の入学式はちゃんとしてあげたかった。それなのに。
自分が情けなくて涙が出そうになるが、必死にこらえた。息子に涙を見せてはいけない。「私がなんとかしないと」
まず、北九州市に住む姉に電話した。姉には息子と同年代の男の子が2人いる。相談してみたが、体格が違い、どう考えてもサイズが合わなかった。
朝早くに鹿児島から夫に持ってきてもらうことも考えたが、下の子のひとりは体調が良くなく、ほかの子どもの部活の用事もある。来てもらっても午前10時半の入学式には間に合いそうもない。