取材スタッフが「みんなファンになっちゃう」
5月10日には、北九州市の小倉昭和館で舞台あいさつが行われ、RCC中国放送のプロデューサー・岡本幸さんと、監督の山本和宏さんが登壇しました。

岡本幸・統括プロデューサー:私は夕方の情報ワイド番組のプロデューサーをしていて、「哲代さんを取材しない?」とお声かけいただいて、2022年から撮影が始まりました。哲代さんは100歳を超えた頃から、地元の新聞で不定期で特集されるぐらい地元では有名な方だったんです。その時のディレクターが山本監督です。
山本和宏監督:映画の背骨が哲代さんの何気ない会話とか、冗談だと思うので、そのまま皆さんにお伝えしたいと思って撮りました。広島では「スーパーおばあちゃん」として大人気なんです。おいしく市販のお茶をいただいたりとか、ちょっとものぐさなとこもあったりとか、そういったところが親しみを持てたり。取材に行くスタッフがみんなファンになって帰っていく感じでした。

【統括プロデューサー 岡本幸】
1974年、大阪府出身。1998年から、RCCでテレビ・ラジオのディレクター、記者として勤務。ラジオ番組『核と向き合う?ヒロシマからフクシマ?』(2011年)、民放連盟賞最優秀、『日々感謝。ヒビカン』(2012年)でギャラクシー賞大賞を受賞。

【監督・編集 山本和宏】
1987年、広島県出身。『世界の車窓から』やNHKのドキュメンタリー番組を制作。『これがおれたちの伝統~人と鳥がつないだ450年~』(2021年)、『被爆樹木の声を聴く~広島の永遠のみどり~』(2022年)で、ともに民間放送教育協会長賞。
『この世界の片隅に』すずさんの5歳年上

映画には、80年前の教え子たちが集まった同窓会に出席する哲代さんの姿も描かれています。当時の子供たちは皆88歳となり、「米寿」を迎えています。会場で「先生!」と声をかけられると、哲代さんは「こんなおじいちゃん、いたかねえ?」とユーモアたっぷりに応じ、会場は笑いに包まれます。

哲代さんが大きな声で出席名簿を読み上げ、おじいさん、おばあさんが元気よく返事をする様子や、『仰げば尊し』を指揮しながら歌う姿は、感動的です。
「哲代さんのように年を重ねたい」
アニメ『この世界の片隅に』の主人公・すずさんは、生きていれば100歳の設定ですが、1920年生まれの哲代さんは、すずさんの5歳年上。三船敏郎、森光子、原節子と同い年です。舞台あいさつの聞き手を務めた小倉昭和館館主の樋口智巳さんは、映画を観て「哲代さんのように年を重ねて生きたいと思った」と感想を述べました。

樋口智巳・小倉昭和館館主:今回作品を拝見して、「年を取るのも怖くない」と思われた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。「哲代さんのように年を重ねて生きたい」と私も思いましたが、監督の思い、作り手側の思いもそこにあったのでしょうか?
山本和宏監督:「100歳まで生きたい」という方が2割ぐらいしかいないというデータを見つけ、驚いたんですけど、「僕もそうかもしれないな」と思いました。哲代さんにヒントをもらえたらいいなと思いましたし、僕も100歳まで生きたいなと思うようになりました。哲代さんにお子さんがいらっしゃらなかったこともあるんですが、妹のひ孫さんに車椅子をしてもらう、若いころには想像しえない幸せに出会えることが、長生きすればあるなと見せてもらった。米寿を迎える教え子さんと同窓会なんて、思いもしないですよね。そういう出会いに出会えるんだなというのを見て、本当に勉強させてもらったなと思います。
岡本幸・統括プロデューサー:自分が去年50歳になって、「腰が痛いのがずっと続くな」とか、「かすみ目だと思ったら老眼だった」とか、どちらかと言うと「未来というのは暗い色になっていくんだ、しょうがない」と思っていたんですけど、哲代さんの姿とか振る舞いを見てると、ふわっと気持ちが軽くなって。なるようにしかならないし、私の周りに助けてくれる人いるかもしれないという気持ちにもなっていくんですよね。広島だけの放送って止めておくにはもったいないし、今私みたいに辛い気持ちになる人はたくさんいらっしゃると思えたので。周りのママ友に聞いてもそうですし、会社の先輩もそんなこと言ってるし、みんなに見ていただけるような形に作ったら、何か意味があるんじゃないか」っと山本監督とも話して、哲代さんの魅力なら後押しがもらえるんじゃないか、と映画にしました。
だんだんとできなくなることが増えていく中でも、「まだこれはできる」「あれもできる」と自分で行動しようとする哲代さん。2025年4月29日、哲代さんは無事に105歳の誕生日を迎えました。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部勤務を経てRKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種プラットフォームでレンタル視聴可能。最新作『一緒に住んだら、もう家族~「子どもの村」の一軒家~』(2025年、ラジオ)はポッドキャストで無料公開中。