木戸大聖に注目!

影山 僕からは「バニラな毎日」(NHK)。蓮佛美沙子さんと永作博美さんのコンビがよかった。二人で洋菓子教室を開くんですが、何かを心に抱えた人がかわるがわるやってきて、お菓子づくりを通じて再生していくのが前半。

後半は、洋菓子教室の生徒の一人の木戸大聖君ですね。かつてはめっちゃ売れていたバンドのメンバーだけど、曲作りが難しくなってきた。その彼が蓮佛さんへの恋心もあったりして再生していく。

倉田 出てくる人が、どこかしら孤独感みたいなものを抱えているんですが、そこにスイーツというキラキラしたものが加わることで、寂しかった人生が輝く。仕事もあって、友達も家族もいて、端から見たら何不自由ないように見える人も、どこかに心の寂しさはあって、それが癒されていく。

スイーツじゃなくても、何か自分の好きなことに出会えたら、人生がちょっとだけでも前に進んでいくんじゃないかという前向きなメッセージが感じられました。

田幸 木戸さんは、注目の役者さんとして挙げたいです。あっけらかんと明るい人かと思いきや、苦しみを抱えているという内面的なお芝居がよかった。恋模様が描かれていってからは、作品が一段と盛り上がってきました。SNSなどでも、木戸さんに沼になっている人がどんどん増えていきました。

静かで繊細でいい作品が、さらに盛り上がるには、ちょっとときめき要素が必要なんだと思います。恋愛要素は要らないという人もいるんですが、誰か推しを見つけたり、ときめいたりする要素が入ると、作品の勢いがすごく加速しますよね。

影山 僕の教え子たちも、木戸君が大好きなんですよ。

倉田 木戸さんは「ゆりあ先生の赤い糸」(テレ朝・2023)で菅野美穂さんの相手役を演じて、あのあたりからちょっと来るかなと思っていましたけど、来ましたね。

「弱さ」を克服しようとせず、抱えたまま前へ進む

田幸 「晩餐ブルース」(テレ東)がよかったです。井之脇海さんと金子大地さんW主演の時点で、期待大と思った方は多いでしょうが、プロデューサーが本間かなみさん。本間Pが手がけるものに外れなし、と思っているドラマ好きの方は多いと思います。

派遣社員時代に自ら出した企画で「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレ東・2020)、いわゆる「チェリまほ」という大ヒットを出したすごい方です。「今夜すきやきだよ」(テレ東・2023)とか、性暴力や貧困の話を描いた「SHUT UP」(テレ東・2023~24)など多くの名作を手掛けています。その本間さんの作品ということで、かなり期待していたんですが、やはり非常にいい作品でした。

プロデューサーが描きたいものに対するブレのなさとか、社会に対する目線、人権意識の高さといったものがはっきりと感じられるのが、この本間さんと、もう一人、先ほど出た「日本一の最低男」の北野さんだと今期は思いました。お二人とも30代ですが「こういうものを描きたい」というビジョンが明確なんです。複数人の脚本家の采配をしっかり振っている。自分の描きたいもの、思いや良心といったものがきちんと作品に反映されるのはすばらしいです。

今回くしくも「日本一の最低男」と「晩餐ブルース」で男性同士のケア問題という同じテーマを描いています。男性社会の中で、有害な男性性、ホモソーシャルな構造みたいなものがある。本間さんはかねてよりホモソーシャルを解体する作品をつくりたいと考えていたとおっしゃっていました。それが、男性同士でただ御飯を一緒に食べるだけで、自分たちでケアし合って癒されていく話になっている。

男性のケアとかケア労働は女性が担うことが多いですけれど、そうではなくて、男性が自分自身のケアをしたいよねと。それがどちらも30代のプロデューサーの作品であるところに、若い世代の意識の変化をすごく感じました。

この作品がいいのは、だからといって、弱さを克服しようということではなく、弱さを弱いまま抱えて生きていこうという、弱さを肯定してくれているすごく優しい作品だと思いました。

倉田 会社などで出世することが正しいという価値観に今の若い人は共感していないわけです。人を蹴落とすとか、強くあるべきとか、そういう価値観ではなく、弱いところを抱えながら、でも、みんなで前に進んでいこうとする。そういう価値観を持っているつくり手が、自分のつくりたいものをつくれる世代になってきて、世の中もそれを受け入れているのだと感じています。