◆いつもと変わりない様子で旅立つ死刑囚たち

一方、福岡の西部軍が関わった米軍機搭乗員の殺害事件でBC級戦犯となり、死刑囚として井上勝太郎や成迫と同じ「五棟」に居た冬至堅太郎。この連載でも度々登場しているが、冬至がスガモプリズンで書いた日記には、成迫ら石垣島事件で死刑を執行された7人が「お別れに回る」様子が一人ずつ書かれている。冬至はスガモプリズン最後の処刑となった石垣島事件の死刑執行から3ヶ月後、朝鮮戦争勃発のすぐ後に、終身刑に減刑された。26人の死刑囚の仲間を見送った冬至は、「淡々と、いつもと変わりない様子で、仲間たちは去って行った」と息子たちに語っている。
冬至堅太郎が日記に記した成迫忠邦との別れも、まさにそうだった。
◆「すっきり死んでください」「ええ」

(冬至堅太郎の日記 1950年4月5日)
四人目は成迫君。これもニコニコと笑っている。
N「やあ、お世話になりました。いよいよ行きますよ」
T「残念だが仕方がない すっきり死んでください」
N「ええ」
T「私もすぐ追っかけますからね」
N「いや、あまりいいところじゃありませんからね。刑場へ行くことだけは止めてください」
T「そう言っても、どうせ行かなくてはならんでせう」
N「然し変ですね。何ともありませんよ」
T「そうですか、結構です。じゃ行ってらっしゃい」
N「さよなら 行って来ます」