日米の金融政策を先読み 来週の決定会合の判断は

――12月18日、19日に2024年最後の金融政策決定会合が開かれる。そこでの利上げは大方の予想は「見送りだろう」となりつつある。景気が強くないから、利上げはしなくてもよいという考えか?
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
内需が弱く、経済は良くない。常識的に考えると、金融政策は現状維持がいい。しかし、今の消費の弱さ、中小企業の苦しさは輸入物価から来ている。異常な円安を修正しない限り、なかなか状況が改善しない。日銀もこの輸入物価は望ましくない。好循環のもとでインフレを起こしたいのであれば、「超円安」対策としては、利上げが適切。12月は利上げをすべきだと思う。

ドル円相場は1ドル=160円を過ぎるところまでいき、日銀が利上げをして円高に戻した。それがまた150円台に戻ってきて、また日銀が利上げをやらないということで、急速に円安が進んでいる。
――金利を上げることは、企業にとってコスト負担になるが、政策のプライオリティからいうと、円安を抑えることが優先課題であるべきか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
何を優先しているのか、日本銀行のコミュニケーションがわかりにくくなっている。経済が弱くて、停滞している背景が、超円安で海外からものすごく高いモノを買わなくてはいけないという国富の流出が起きている。その理由の一つが、日銀の金融政策であれば、必要に応じて、行き過ぎた円安をやめるための対策を取るという発信をした方がいい。そのためのチャンスが12月であり、1月20日のトランプ氏の大統領就任後の方が、もっと政策の不確実性が高まるのに、なぜ今チャンスを取らないのかと思う。

円安の背景にあるのが、実質消費の弱さ。「実質消費支出」のグラフをみると、ずっとマイナスが続いている。牛肉や豚肉もマイナスとなり、鶏肉しか食べられない状況になっている。

――実質賃金を見ても、少しずつプラスに向けて動いているが、まだプラスの領域には出ていない。名目賃金を上げると同時に、物価、コストプッシュを抑えるという意味では、円安を抑えることは有効か。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
ものすごくモノが高くなったのは、輸入物価が高く、購買力が停滞しているから。そこに焦点を当てて「第二の力」をもたらしたいのであれば、望ましくない円安を、日銀ができる範囲で是正することが最優先。日銀はそれを優先して利上げをしてきたと思う。
――日銀の説明が数か月おきに変わってきている気がする。2023年の今頃は、好循環が起きるということ、つまり「第二の力」が出なければ良いとは言えないし、利上げをしないという言い方をしていた。2024年の利上げ局面に入ると、円安が良くないとか、実質金利が低いから、調整していくという議論に変わって、7月に追加利上げをやったが、今度はそちらの鳴りを潜めている。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
たくさんの目標を同時にやろうとするから、わかりにくくなる。「景気の低迷」だけを見れば、確かに現状維持だが、超円安が起きているので、それを是正することになったら利上げ。しかし利上げをしたら、株価が下がるので、市場の方でいろんな不安が起きる。波風を立たせないでやろうとして、全て満たそうとしてもその甲斐はない。優先順位をはっきりして政策をやっていくべきだと思う。
――株価が前回急落したことや、政治との摩擦を恐れているではないかという話があったが、何をそんな日銀は怖がっているのか、何が足りないと思っているのか。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
株価の下落に対して、みんなが大きく騒ぐこともある。しかし何を優先するかというと超円安。だから物価を通して補助金で支援するよりも、そのもとにある超円安をなぜ多くの政治家たちが見ないのかと思う。

――利下げをするアメリカも消費者物価指数を見ると3%ぐらいで止まっている。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
賃金も高いし、物価の基調が高すぎる。12月は1回利下げしたとしても2025年、もしかしたら2回下げると示すかもしれないが、トランプ氏の政策で、インフレ圧力が高まって景気も良くなって、利上げするということもあり得る。
――9月に出した見通しでは、2025年は、4回。1%の利下げ。今度新しい見通しが出るが、これが何回になるかが注目だ。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
市場は2回下げると見ている。しかしトランプ氏が本当に言っていることをやろうとしたら、全てにおいてインフレ的だから、むしろ利上げがあり得る。アメリカの経済はやはり強い。そうすると円安になりやすいので、日本銀行はきちんと超円安を是正するという姿勢を示さないとさらに円安が進んでいく。
(BS-TBS『Bizスクエア』12月14日放送より)