◆壁の高さを理論的に考えてみると… 正解は何種類かあるようだ
大和総研の是枝さんの考え方では、「課税の壁」と「扶養の壁」を別々で考えた方が理屈が通りそうだといいます。年収は時給×時間ですが、この30年で時給が上がったため、103万円にとどめるために、働く時間が減る、となっていますね。
なので、扶養の壁で考えると、玉木さんが言う通り、時給が上がった分だけ1.73倍して178万円にすることは合理的だ、と是枝さんも分析しています。では、それによる税収減がどれぐらいかというと、是枝さん曰く「ほとんど税収減はない」と予測しています。だって今まで大学生は、もともと働き控えをしていたわけですから。
◆課税の壁 で考えると 引き上げ額の正解は?
では、課税の壁、で考えてみます。103万円というのは、憲法25条の生存権(必要最低限の生活をするのにこれぐらい必要で)そこまでは税金をかけませんという考え方に基づいているとされています。そうなると、必要最低限のお金が、1995年に比べてどれぐらい変わってるかということを基にするべき、という考え方もあります。
では、実際30年で、だいぶ上がってるんじゃないですか、と思うかもしれませんが、実は30年壁が変わらなかったのは、ほとんど物価が上がってこなかったからなんです。10年ほど前までの約20年、物価はほとんど上がらず、ここ10年は上がっています。物価が上がった分を30年で平均すると、1割ぐらいだそうです。
それを根拠にすると、今なら103万円×1.1=113万円、「壁の正解」は113万円でいかがでしょうか?
この額では納得いかない感じもあるので、次のデータもみましょう。生活必需品に限った物価上昇率、家賃・エネルギー・食料を見ると、もうちょっと上がっていて、103万円×1.24=壁の正解は128万円になります。
さらに食料の上昇率だけ見ると、もっと上がっていて、30年で約36%上がってますから、103万円×1.36=壁の正解は140万円まで上がるのが最低限の暮らし、とも言えます。
このように、根拠と指標次第で、設定すべき壁の高さは変わっていくことがわかります。さらに減収7.6兆円という試算も、本当に7.6兆円なのか、というところもきちんと知りたい。いったいどこに落としどころがあり、どういう理由で壁の高さが決まるのかも、しっかり見ていきたいと思います。