前回ピンチヒッター的起用だった田浦の成長で長距離区間候補が充実

代表経験選手、候補選手の多さに加えて、新たにトップレベルに成長した選手の存在と、日本選手権3位の選手が「チーム6番手」(野口監督)と言われるメンバー争いの厳しさも、今年の積水化学の特徴だ。

田浦は昨年大会の1区で区間5位。トップの資生堂に43秒の差を付けられた。「直前の出場決定で動揺したところもあったと思います。3区の(佐藤)早也伽さんが後半ですごく粘ってトップに立ってくれましたが、私はあの走りができませんでした」

だが大会10日前まで4区を争っていた控え選手で、レース4~5日前に1区への出場が決まった。そのことを考えれば、できることはやった、という評価ができた。そしてこの1年間の、田浦の成長には目を見張るものがある。

「去年のクイーンズ駅伝で悔しい思いをしたので、1年を通してケガをしないことを意識しました。アイシングや超音波など基本的なケアをしっかり行って、ウエイトトレーニングの重量も去年より10kg増で行っています」

5月のゴールデングランプリ5000mで15分24秒37と、自己記録を大きく更新。シーズンベストでは新谷、楠に続く3番目のタイムを出した。新谷と楠はクイーンズ駅伝長距離区間で、区間賞を取ってきた2人である。7月には31分52秒19と自身初10000mで今季日本5位、チーム内2番目の好記録で走った。9月の全日本実業団陸上10000mは日本人トップの4位と、タイトルに近いポジションを占めた。

野口監督は「新谷、佐藤、楠、田浦が長距離区間候補」と考えている。

入社10年目の森の今季も、積水化学を象徴している。昨年のアジア選手権代表になった3000m障害こそ日本選手権6位に終わったが、5000mでは日本選手権3位。田中希実(25、New Balance)、山本有真のパリ五輪代表2人に続いた。さらに記録面では1500mで4分10秒33と、自己記録を4秒64も更新し今季日本3位を占めている。ベテランがこれだけの頑張りをしていても、駅伝メンバー争いでは6番目と言われてしまう。

「他チームならエース区間に行けるのに、積水化学では6番に入るかどうかのレベルなんです。連覇はもちろん目標にしてきましたが、そのことがずっと頭にあって・・・」

森は「10年間で初めてです」と今季のメンバー争いを感じている。大東大が強くなる時期に活躍した選手で、ケガで駅伝に間に合うか不安になったことはあったが、実力でメンバー外になる可能性を感じたことは、「高校(諫早高。長崎県の長距離強豪校)1年以来」だと振り返る。

「この年齢になってもそういう発破のかけられ方をするなんて、と思っています」と森。こういう言い方ができるのは、野口監督との間に信頼関係が築けているからだ。野口監督はライバルチームのことを考えるのでなく、自分たちが成長できているかどうか、を選手たちに意識させ続けて来た。優勝は何とかなるだろう、という雰囲気にチームが流されることを避けたかった。最も長く在籍している森が危機感を持つことで、チームの雰囲気が引き締まると考えた。
2連覇に挑む積水化学はそのくらい、隙が無いチームになっている。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)