支持母体・連合の方針で手つかずの「壁」も
ではなぜ今回、国民民主党は社会保険の壁に手を付けなかったのか。背景には連合の方針があるようです。ご存じの通り、連合は労働組合の中央組織で、立憲民主と国民民主の最大の支持母体でもあります。その連合は先月の中央執行委員会で、「第3号被保険者制度」の廃止を政府に提案することにしました。
3号は会社員や公務員などに扶養される配偶者が、年金保険料を納めなくても、老後の基礎年金を受給できる仕組みです。サラリーマン世帯の専業主婦も自分名義の年金を確保できるよう、1985年に導入されました。現在の対象は年収106万円または130万円未満の人たち。およそ760万人いるうちの98%が女性です。
導入当時、専業主婦と共働き世帯の割合は6対4でしたが、今は3対7で逆転しています。夫婦2人とも年金保険料を払っている人たちからすると、保険料を納めずに年金を受け取れるのには不公平感がありますし、先ほど言ったように、今はこの制度が「働き控え」の主な原因とされ、女性の働く意欲を妨げているという批判もあります。
このため連合は、3号の対象となる基準額を徐々に下げ、最終的に全員が国民年金かパート先の厚生年金に加入して第1号被保険者になることを提起しています。ただ、混乱を防ぐため、10年ほどの移行期間を設け、子育て世帯などには一定の配慮も併記しています。
国民民主も、おそらくは立憲民主も、働き控え対策はこの連合の方針に則っていくと思われ、となるとなおさら、今回の基礎控除額の引き上げは、減税政策の意味合いが強いと感じます。いつから、どこまで引き上げるのか、財源の手当てはどうするのか、私たちの生活に直結するだけに、議論の行方に注目です。
発動して当たり前の「トリガー条項」

最後に「トリガー条項」について説明します。これは、レギュラーガソリンの全国平均価格が3か月連続でリッター160円を超えた場合、ガソリン税53.8円のうち25.1円の徴収を止める仕組みです。逆に3か月連続でリッター130円を下回れば、元に戻します。
2010年、民主党政権当時に設けられましたが、翌年に東日本大震災が起き、復興財源確保を理由に今も凍結されたままです。近年の価格高騰で国民民主など野党側は解除を求めましたが、「地方の税収が減る」などとして与党が見送り、代わりに石油元売り会社への補助金で価格を抑えています。
この際言いますが、ガソリン税はおかしいことだらけです。そもそもトリガー条項で徴収停止する25.1円って、50年前に道路整備のため暫定的に上乗せされたのが、今も「特例」で取られ続けています。つまり、トリガー条項はガソリンの購入者から余分に取っている分を「元値が上がったらお返しします」という制度ですから、発動して当たり前だと、私も思います。
さらに、二重課税の問題もあります。ガソリンや軽油の小売価格は、元々のガソリン価格に税金が乗って、その総額に消費税がかかった値段です。税金にも消費税がかかるので二重課税で、結果としてガソリン価格のおよそ4割が税金です。
さて、少数与党の国会運営は空転や混乱の恐れもありますが、一方で、これまで数の力で抑えられていたさまざまな問題が浮かび上がり、解決を図る機会にもなり得ます。日本はここで変われるのか――ある意味、これが総選挙で示された民意だった気がしています。
◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)

1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。