美術家・中村邦夫さん(52)は、能登半島地震で壊れた被災者の器を伝統技法「金継ぎ」で修復するボランティアを行っている。中村さんは器を直すことは「その人の思い出や記憶を直すこと」だと話す。復興への苦悩と決意。「金継ぎ」された器には被災者それぞれの物語がつまっている。

輪島市の朝市通り周辺の大規模火災で店を失った田中宏明さん(33)が修復依頼したのは、火事で焼け残った伝統工芸品の“珠洲焼”だった。
「被災者の日常を修復する手伝いを」
美術家 中村邦夫さん
「割れても割れても、日常を美しく元に戻していく。ここにいろんな記憶とか情報が染み込んでいるから。本質的に言えば、金継ぎというのは修理というよりも、こういう時間とか記憶を繋げてるんじゃないかな、といつも思うんですよね」

美術家・中村邦夫さんは、1月1日の地震で壊れた被災者の器を「金継ぎ」で直し続けている。修復費用は受け取っていない。
割れた器と一緒に届く、被災者からの手紙。

被災者からの手紙
「正月用に飾ってあった九谷焼が割れてしまいました。他にも破損してしまいましたが、この壺だけでも修復できないものかと考えていました」

美術家 中村邦夫さん
「器には他の人には見えない何かがあると思うんですよね。この方の日常を少しでも修復する手伝いができたらいいかなって」
1月中旬にSNSで呼びかけ、これまで60個ほどの器を直してきた。そんな中村さんも能登半島地震の被災者のひとり。漆の研究や伝統技法や能登の伝統技法を学ぶため、2023年12月に輪島と珠洲で古民家を購入したが、元日の地震で珠洲の古民家は全壊。輪島の家も…
美術家 中村邦夫さん
「建物の半分は倒壊しているので。『大規模半壊』と一般的には言うらしいですけど。さすがにこうなると直せない」
いまは家が崩れないよう補修しながら公費解体の順番を待つが、いつになるかはまだわからない。家の解体が終わっても、この土地を離れるつもりはないという。
美術家 中村邦夫さん
「人も良いし、土も良いし、空気も環境も素晴らしい。工芸をやっている人にとっては、憧れの土地ですよ。特に漆に興味がある人にとって輪島は、一番憧れの場所だから。壊れてもやっぱり逃げる選択肢はないような気がします」
しかし、心配事もある。古民家がある輪島市地原地区には今も避難指示が出ている(6月27日時点)。土砂崩れがあった場所もそのままの状態だった。地原地区には14世帯が住んでいるが、大半は避難先から戻っていないという。

美術家 中村邦夫さん
「みんなに聞いたら家を壊すとか引っ越すって、みんな言ってて。僕しか残らなかったらどうしよう…」