「組織から電磁波攻撃」心神耗弱か喪失か
2023年12月6日、松山地裁。注目の中、裁判員裁判の初公判が始まった。
設けられた傍聴席の定員に対して、3倍近い人が傍聴券を求めて並ぶ。そして法廷の前には、巨大な門型の金属探知機が設置された。いずれも、松山地裁で行われる刑事裁判としては異例のことだ。
物々しい雰囲気の法廷。そこに、実に4人の刑務官に取り囲まれながら、手錠と腰縄を付けられた男が入って来た。河野智被告だ。白髪の混じった髪は、逮捕された直後と比べて長く伸びたように見える。誰かを探しているのだろうか、目を細めたような険しい表情で、しきりに傍聴席を見回している。記者とも目が合った。鋭い視線だ。
裁判が始まり、検察官が起訴状を読み上げる。

犯行の現場となったのは、知人宅だった。この家に住む、知人の岩田健一さん(当時51)と、同居していた父親の友義さん(当時80)、そして母親のアイ子さん(当時80)の胸などをナイフで突き刺し殺害した。
「殺意を持って、胸などを刃渡り12.7センチのナイフで突き刺し、失血により死亡させて殺害した」
被害者の3人の死因は、いずれもナイフで刺されたことによる失血死だった。
56歳となった河野智被告は、起訴内容を全面的に認めた。
それを踏まえ弁護側は、被告は犯行当時、善悪の判断ができず、罪に問うことができない「心神喪失」だったとして、無罪を主張した。
一方の検察側は「河野被告は『組織』から電磁波攻撃などの嫌がらせを受けたと被害妄想を抱き、怒りを募らせた」と、犯行に至った理由を説明。その上で、河野被告は犯行当時「妄想型統合失調症」を患っていた影響から、自身の行動を理解する能力が著しく劣っていたものの、罪に問うことはできる「心神耗弱」だったと述べた。
異色の裁判、その争点は、責任能力の有無に絞り込まれた。