2026年5月現在、日本国内および世界各地で麻疹(はしか)の報告数が急増しており、流行の兆しを見せている。

日本は2015年にWHOより麻疹排除状態の認定を受けたが、近年、近隣諸国での流行が報告される中、国内でも2026年に入り感染例が目立ち始めている。国内では、イベント会場、飲食店、家庭、学校等において、二次感染を含む感染伝播事例が発生しており、海外渡航の前後を含め、注意が必要な状況にある。

麻疹(はしか)は感染力が極めて強く、重症化のリスクを伴う疾患であり、先進国においても1,000人に1人が死亡するとされている(死亡率0.1%)。日本では、1歳時および就学前1年間に計2回のワクチン接種機会が設けられているものの、流行を十分に阻止できる水準には達していないのが現状である。

本稿では、麻疹(はしか)のウイルス学的特徴ならびにワクチン接種の実態について整理する。

麻疹(はしか)とは?

1)ウイルス学的特徴

麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによって引き起こされる急性ウイルス性感染症であり、現存する感染症の中でも極めて高い感染力を有している。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、家庭内などの身近な接触環境において、免疫を持たない人が感染者に曝露された場合、約90%が感染すると報告されている。 

麻疹ウイルスは、咳やくしゃみによる飛沫感染だけでなく、空気感染を起こすことも知られている。比較的広い空間であっても、感染者と同じ空間を共有するだけで感染する可能性があり、接触感染・飛沫感染・空気感染の全ての経路で感染しうる極めて高い感染力を有する。基本再生産数(R₀)は約12~18人程度(1人の感染者が感染させる可能性のある人数)で、インフルエンザの10倍にのぼっている。

感染から発症までは約7日~21日(平均10日~12日)で、発症の1日前から解熱後3日を経過するまで感染力があると言われている。感染症初期のカタル期(第1日~4日目)には、38~39℃の発熱・鼻水・咳・結膜炎などの症状が認められる。(症状がなくても他者に感染させる可能性がある。)

感染初期では風邪症状と区別が付きにくいが、口腔内にはコプリック斑と呼ばれる白い斑点症状が現れるのが特徴的である。感染期中期(第4日~5日目)には、40度前後の高熱と、全身へ広がる発疹が確認される。耳の後ろや顔から始まる赤い発疹が、徐々に体幹や四肢へと広がっていく。回復期(第7日~10日目)には、徐々に解熱へ向かい、全身の発疹も消退していくが、麻疹ウイルスには感染後に既存の免疫記憶細胞を破壊することによる免疫機能の低下(免疫健忘)を招くことが知られているため、回復後にも他の感染症への罹患リスクにも注意が必要となる。

麻疹の合併症には、肺炎や脳炎、中耳炎や角膜炎などが知られており、時には死亡に至ることもある感染症である。また、ワクチン導入前には、世界で毎年約260万人が麻疹により死亡しており、子どもだけではなく成人した大人も重症化しやすい疾患でもある。特に妊婦が感染すると流産や早産のリスクが上昇する可能性があり、家族計画を検討している人や、職場等で妊婦と接する機会のある人においても、麻疹を自らの問題として認識し、感染予防に努めることが重要である。

2)感染動向

日本感染症学会によると、2023年頃から感染例が目立ち始め、2025年には米国のサウスカロライナ州において962例の感染例を確認、2026年初めにはイギリスのロンドン北部で34例の報告が確認されている。

一方で、日本では、2026年第14週(4月8日)までに236名の感染例が確認され、最新報告である第19週(5月13日)時点では、479名となっている。従来の感染報告の増加傾向よりも急激に増えている。

また、都道府県別では、東京都などの関東を中心に感染例が集中しており海外からの輸入感染が疑われる。年齢別では、20歳代が最も高い割合を示すものの、重症化リスクの高い乳幼児の感染例も報告されている。現時点では、海外から持ち込まれた麻疹ウイルスが国内で拡大しないように留意する必要がある。