なぜ、食品ロス削減は、値引きに見えなかったのか
クリスピー・クリーム・ドーナツの取り組みに見る、余剰をブランド体験へ変える設計
食品ロス削減は、環境負荷の低減、廃棄コストの削減、社会的責任への対応という意味では、いまや多くの企業にとって避けて通れないテーマになっている。
一方で、食品小売や飲食の現場に立つと、欠品を避ける、十分な品揃えを維持する、店舗で選ぶ楽しさを損なわない、通常価格で購入する顧客との関係を守ることなど、食品ロス削減は、環境施策であると同時に、売場運営、価格設計、ブランド管理、顧客体験の設計課題でもある。
本稿では、スイーツ大手のクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの取り組みをもとに、食品ロス削減をどのように顧客の価値=ブランド体験へと転換できるのかを考えてみたい。そのポイントは、余剰商品を単なる売れ残りとして扱わず、顧客が前向きに参加できる別チャネルとして設計することにあるとも言える。
なぜ事業系食品ロスは減らしにくいのか
日本の食品ロス対策は、長期的には一定の進展を見せてきた。2024年度の食品ロス量は461万トンで、前年度の464万トンから3万トン減少した。内訳を見ると、食品関連事業者から発生する事業系食品ロスは237万トン、一般家庭から発生する家庭系食品ロスは224万トンである。


全体としては微減した一方で、事業系食品ロスは前年度の231万トンから6万トン増加している。農林水産省も、納品期限の緩和、賞味期限の延長、未利用食品の寄附促進、外食における食べきりや持ち帰りなどを推進しているが、事業者側の食品ロスには、なお現場での実装上の難しさが残っている。
たとえば、食品小売や飲食の現場では、食品ロス削減と、欠品回避、陳列維持、顧客体験の維持がしばしば緊張関係を持つ。閉店前であっても、棚に一定の商品が並んでいなければ、顧客は選ぶ楽しさを感じにくい。ブランドによっては、売場の見え方そのものが価値の一部になっているケースもある。
その結果、顧客体験を守るために残した商品が、最終的に店舗余剰となり、食品ロスにつながる場合もある。さらに、値引き販売を行えば、通常価格で購入する顧客との関係、値引き待ちの発生、現場オペレーションの負荷といった課題も生じやすい。
また、食品ロス削減に関わる業界関係者からは、日本の小売・飲食事業者には、食品ロスの存在を対外的に示すこと自体への抵抗がある、との指摘も聞かれる。背景には、売れていないと見られる懸念や、値引きがブランド価値を下げるのではないかという不安がある。工場での在庫削減は進めやすくても、店舗に出てからの食品ロス削減は難しいという声は、現場感覚として理解しやすい。
このように、食品ロス対策には、環境配慮だけではなく、経済合理性とブランドへの配慮等を同時に満たす取り組みが求められている面もある、とも言えるだろう。
食品ロス削減をブランド体験に読み替える
そうした中で、テクノロジーを活用した食品ロス削減の仕組みを、ブランド体験の一部として取り入れた企業の一社が、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンである。
クリスピー・クリーム・ドーナツは、米国発のスイーツブランドであり、ドーナツを通じて日常にLittle Joy(小さな喜び)を届けることをブランドスピリットとしている。同社は、品質・衛生、地球環境、地域とのつながり、Krispy Kremers(従業員)の働きがいという4つの約束を掲げ、食品廃棄物のリサイクルやフードロス削減を環境面の取り組みに位置づけている。
ドーナツは、当日販売、鮮度感、見た目、品揃え、店頭で選ぶ楽しさが価値の一部をなす商品である。閉店前に棚を絞れば食品ロスは減らしやすいものの、顧客が期待するブランド体験は弱まる可能性がある。食品小売・飲食事業者が直面する売り切りと顧客体験維持の両立の難しさが、より見えやすい商品だと言える。
では、店舗の現場では実際に何が起きているのか。クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの取り組みからは、事業系食品ロスの発生構造と、それを削減する際の実装上のポイントが見えてくる。