フィルターバブルとウェルビーイング

本章では、フィルターバブル(提示側の偏り)とエコーチェンバー(関係性側の反響)が重なり合うことで、ウェルビーイングにどのような影響が生じ得るかを整理する。

今回は、ウェルビーイングを、単なる「気分の良さ」や「生活評価」に限らず、情動の安定(不安・怒り等)、日常生活の機能やストレス対処(メンタルヘルス等)、および他者との関係の質や社会的信頼(信頼・協力・対話可能性等)といった複数の要素から成る多面的概念であると定義する。

したがって本稿では、ウェルビーイングを単一のスコアに還元せず、上記の要素がそれぞれどのように影響を受け得るかに着目する。

認知負荷の低下と、社会に対する理解の単純化

自身の意見と一致する情報(以下、同意的情報)や関連性の高い情報が優先提示されると、情報探索の負荷が下がり、短期的には安心感や納得感が得られやすい。

これはウェルビーイングを高め得ると考えられる。一方で、異なる視点や反証に触れる機会が持続的に減少すれば、不確実性の下で前提を更新する機会が減り、現実の対立や曖昧さに直面した際に認知的負荷が跳ね上がり、ストレス反応が強まる可能性がある(Kashdan & Rottenberg,2010)。

社会的支持の獲得およびエコーチェンバーによる敵意・攻撃性の強化

同質的なコミュニティは「仲間がいる」という社会的支持を提供し得るため、短期的にはウェルビーイングを押し上げる可能性がある。一方で、同質性が強いネットワーク内では、意見や評価が反響・強化されやすい。

対立対象への敵意や嘲笑、道徳的憤りの表明が、所属するネットワーク内で賛同されやすい行動として共有され、異論を唱えにくい雰囲気(暗黙の規範)が形成されると、攻撃的言動が正当化されやすくなる可能性がある。

この点を裏づける関連研究として、政治的・道徳的話題において「道徳感情(moral-emotional)を含む言語」がオンラインでの拡散を強めることが示されている(William J.Brady et al.,2017)。

さらに、オンライン上では、憤りの表明が「いいね」や共有といった社会的報酬を得やすい場合があり、その社会的報酬が将来の憤り表明を増やす(学習される)ことを示す研究もある(William J.Brady et al.,2021)。

結果として、コミュニティ内の一体感は短期的に高まっても、敵対集団や異論者に対する蔑視・嫌悪が強まりやすくなれば、攻撃される側のメンタルヘルスだけでなく、攻撃に参加する側にとっても、慢性的な怒り・不信・警戒といった情動状態が固定化し、長期的なウェルビーイング資源(関係の質、信頼、安定した自己評価)を損ない得ると考えられる。