フィルターバブルとは

昨今の情報過多の社会において、供給される情報量に対して私たちが割ける消費時間やアテンション(注意)は限られており、両者は希少な資源となっている。

これは50年以上前にSimon(1971)が「情報の豊かさは注意の希少性を生む」と指摘した点である。

今日では、デジタル・プラットフォームの普及と最適化がさらに進展したことで、プラットフォーム間で最適化を武器に利用者の滞在時間・反応を競い合うようになった。個々人の可処分注意をめぐる争奪が強まり、「注意の希少化」がより顕在化しやすくなっている。

インターネットの検索サービス、SNS、動画共有サイト等のソーシャルメディア・プラットフォームは、利用者から可能な限り多くの消費時間、アテンションを獲得するために、利用者の行動データを収集し、利用者の選好に合わせて検索結果や表示される投稿をパーソナライズ(個別最適化)し、「最も強く反応するもの」を予測することで、エンゲージメント(滞在時間や反応等)の最大化を図っている。

こうしたパーソナライズが進展した情報環境の一つとして、フィルターバブルが議論されている。

フィルターバブルとは、パーソナライズされた情報フィルターにより、「見たい情報が優先的に表示される」「関心のない情報が遮断される」環境が構築され、利用者が接する情報に偏りが生じ、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立してしまうという状態を指す。

フィルターバブルの特徴は、単に「偏った情報が見える」ことにとどまらない。

第一に、偏りがランキングや推薦の仕組みを通じて漸進的に形成されるため、利用者が変化を自覚しにくい。

第二に、パーソナライズは通常「自分に関係がある情報が出てくる」「探す手間が減る」という利便性として認識されるため、本人にとって快適な情報環境として受け止められやすい。

そのため、結果として情報接触の範囲が狭まっていても気づきにくい(Pariser,2011)。

さらに、利用者の反応が学習データとして蓄積されることで、提示内容が一層「本人好み」に最適化され、同種の情報接触が増えるという自己強化ループが生じ得る点も重要である。

オンラインニュース消費の実証研究は、こうした仕組みが情報接触の偏りと結びつき得ることを示しつつ、影響の大きさや現れ方は利用経路や文脈によって異なるため、一般化には留保が必要であることも示している(Flaxman,Goel & Rao,2016)。

なお、フィルターバブルはしばしばエコーチェンバー(反響室)と併せて議論される。

概念整理としては、フィルターバブルが主にアルゴリズムやパーソナライズによる情報提示の偏りを指すのに対し、エコーチェンバーは主に同質的な人間関係(ネットワーク)内で意見が反響・増幅される側面を指すことが多い。

ただし実際には、友人ネットワーク・アルゴリズム・本人の選択が相互に作用し得るため、両者を切り離すよりも複合的なプロセスとして捉えるのが適切であるとされている(Bakshy,Messing & Adamic,2015)。

これを踏まえ、本稿ではフィルターバブルを「提示の仕組み(ランキング/推薦)による偏り」として主に扱い、エコーチェンバーは「同質的ネットワーク内での増幅」として補助的に位置づけることとする。