政府や経済界が推進している労働移動

人手不足の深刻化への対応が喫緊の課題となる中、成長分野への労働移動は重要な政策課題の一つとなっている。

政府のみならず、経団連や経済同友会といった経済団体も、労働移動の推進を提言している。

近年は、転職サイトの広告等に触れる機会も増え、社会全体でも転職に対する見方が変化しつつある。

そこで、転職者・転職希望者数の推移や雇用形態別・企業規模別の動向等、労働移動の実態を整理する。

正規雇用者における労働移動が増加

総務省によると、2024年の転職者数は331万人であり、2015年の298万人から33万人増加している。

転職率(転職者数÷就業者数)でみると、2015年の4.7%から2024年の4.9%へと微増にとどまっている。

他方、転職希望者数と転職希望率(転職希望者数÷就業者数)はともに上昇基調にあり、2024年の転職希望者数は1,000万人、転職希望率は14.8%となっている。

つまり、就業者全体で見れば「転職したい」と考える層は拡大している一方で、実際の転職(社外移動)は大幅に増加しているわけではない。

雇用形態別で見ると、非正規雇用者として転職した人数が多い傾向が続いているものの、大きな増加は見られない。

その一方で、正規雇用者として転職した人数は増加傾向にあり、直近10年間で106万人から135万人と約30万人増加している。

これは全体の転職者数増加分の9割弱を占める。

正規雇用者としての転職は、前職も正規雇用者だったケース(正規→正規)と、前職が非正規雇用者で転職により正規雇用者となったケース(非正規→正規)の2つに区分できる。

資料が示す通り、前者が増加しており、正規雇用者における労働移動が活発化していることがわかる。

正規→正規の転職を年齢別でみると、25〜34歳、35〜54歳における増加が確認できる。

具体的には、直近10年間で25〜34歳は11万人(26万→37万人)、35〜54歳は14万人(28万→42万人)増加している。

35〜54歳をさらに10歳階級でみると、データ上確認可能である2018〜2024年の期間では35〜44歳が最も増加していた(18年:18万人→24年:24万人)。

以上より、転職者数の増加分の中心は正規雇用者における転職であり、若年層からミドル層にかけて労働移動が広がっているといえる。

企業規模の大きい企業への転職が増加

続いて、企業規模別の動向を確認する。

直近10年間では、30〜499人企業への転職が最も多く、増加傾向にある。

また、1,000人以上企業への転職や500〜999人企業への転職も増加しており、相対的に企業規模の大きい企業への転職が活発化している。

一方で、1〜29人企業への転職は横ばいであり、中小・小規模企業における人材獲得が厳しい状況が示唆される。

中堅企業や大企業は、中小・小規模企業と比較して賃金水準の高さに加え、福利厚生の手厚さや柔軟な働き方の制度整備が進んでいる企業も多い。

また、人材育成に力を入れていることも転職先として選ばれる要因の1つだろう。

選ばれる企業とは

ここまで、正規雇用者における転職の増加や企業規模の大きい企業への転職が拡大していることを確認した。

今後、人手不足の更なる深刻化が見込まれる中で、規模の大小を問わず企業が労働者から「選ばれる」ためには何が必要か。

賃上げや福利厚生制度の充実はもちろんのこと、働きやすい環境整備の重要性が増すのではないか。

働きやすい環境の捉え方は多様だが、一人ひとりの状況に応じて働き方を選択できる仕組みと、その選択を支える支援が整った環境だと考える。

年齢・性別・家庭環境など、労働者それぞれが置かれている状況は異なる。

また、同じ個人であってもキャリアの局面によって「より働きたい時期」と「家庭等の事情で労働時間を抑えたい時期」が生じ得る。

企業にはどの局面でも安心して働き続けられるよう、柔軟性と持続可能性を両立した制度・環境づくりが欠かせない。

例えば、テレワークやフレックスタイム等の働く場所や時間の柔軟性確保、長時間労働の是正、休暇取得の促進、リスキリング機会の提供を含むキャリア開発支援など、個人に寄り添った施策の充実がこれまで以上に求められる。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 副主任研究員 岩井 紳太郎)

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