CSIR(企業の社会的不責任)の本質――信頼を損なう行為のメカニズム

このような一連のリスクは、近年では「CSIR(Corporate Social Irresponsibility:企業の社会的不責任)」として知られている。

隠蔽、制度の悪用、環境負荷の軽視など、企業の行為が社会や環境に実害をもたらすことを意味しているが、サステナビリティの文脈では、たとえばパーパスとして環境保護を掲げながら実際には取引先への過度なコスト転嫁で地域産業を圧迫している、あるいはダイバーシティを標榜しつつ採用で固定的なバイアスを温存している、といったケースが考えられる。

多くの企業で導入が進められた「パーパス経営」とは、単なる「(理想の在り方の)宣言」ではない。

先行研究では、パーパス経営を「循環するシステム」ととらえ、(パーパスを)掲げる、(実践的に)動く、(結果を)検証する→修正するというサイクルを一体として設計すべきと指摘されている。

言わば、理想の語りと行動を切り離さず、「検証」と「修正」を組み込むことこそが要諦の1つであり、パーパス経営を持続させるには、それらをセットで設計する発想が欠かせない。

一方、理念と実態の不一致が露見した瞬間、これまでのパーパスやCSRの積み重ねが無力化されてしまうことになる。

先行研究では、消費者は「CSRをしている企業が不正を起こした」と知ると、不正のない企業に対する評価よりも大きく強い失望(裏切り効果)を感じやすいとされる。

たとえば、環境への取り組みをうたいながら、同時にサプライチェーンで労働問題を抱えていれば、「言葉が先行している(矛盾)」と受け止められ、CSR全体への信頼を失いかねない。

言わば、信頼を決定づけるのは善行の数というより、むしろ矛盾の少なさである、とも言えるが、このネガティブは先行研究において「負のモデレーション効果」と言われている。

さらに、企業の不正や矛盾に気づいたとき、人々は感情的な怒りを「合理的な選択へと変換する傾向」があるとされる。

すなわち、これは不買(買わない/ボイコット)、スイッチ(競合へ乗り換える)、SNSでの共有・注意喚起(社会的制裁)などの行動を指すが、これらは単なる怒りの発露ではなく、市場を通じた消費者による倫理的意思表示であるということを意味している。

言わば、感情的な不買というよりも、むしろ意図された制裁といえるが、これは先に挙げたニッセイ基礎研究所の「ボイコットは衝動的な行為ではなく、合理的な消費行動である」という分析結果とも整合的である。

一般論として企業が持続可能性など社会善への貢献を語るほど、その言葉は社会的契約としての重みを増す。

その責任とは、言葉を裏づける証拠を示す責任であり、それを怠れば、善意の発信さえも矛盾と受け取られかねない、CSIRはそのような一連のリスクの一端を示しているとも言える。

欧州の潮流――サステナビリティ訴求を「検証」と「実証」で支える規制の強化へ

欧州では、近年、企業によるサステナビリティに関する主張に対する制度的な規制が着実に進められつつある。

EUの「消費者エンパワーメント指令」や「グリーンクレーム指令」は、根拠のない環境訴求を禁止し、広告・認証・金融情報を横断的に監視する多層的な体制を整えつつある。

こうした潮流の中、企業が「理想」と「現実」のギャップをいかに透明に見せるか、今後のサステナビリティと収益の両輪の要となるブランドの信頼の尺度の1つとなっていくのではないだろうか。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員 小口 裕)

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