近年、社会性や信頼・共感をブランド・アイデンティティの中心に据え、積極的に発信する企業が増えている。

その一方で、こうした企業による公的制度の歪曲、不正、公共への実害など、社会を揺るがす事態も相次いで発覚している。

懸念されるのは、そのような理念や未来志向の発信が、実践や制度運用の整備を十分に伴わないまま先行してしまうことである。

結果として、意図せず問題が露見し、消費者には「実態を隠す構造」として映りかねない。

このように、長期的にはサステナビリティへの配慮を掲げながらも、短期的な誠実さを欠く行動が問題視される現象は、「フューチャーウォッシュ(Future Washing)」と呼ばれている。

サステナビリティにおいて未来や理想を描くこと自体は、企業の存在意義を明確にするうえで欠かせない。

しかし、それが現場での実行と乖離した瞬間、信頼を大きく損ねるリスクが生じてしまう。

こうした実態は、「CSIR(Corporate Social Irresponsibility:企業の社会的不責任)」として位置づけられている。

欧州では近年、企業広告やPRを通じたサステナビリティ発信に対し、制度・規制の強化が進められており、発信内容を横断的に監視する体制も整備されつつある。

今後、企業が「理想」と「現実」のギャップをいかに透明に示すかが、ブランドへの信頼を支える、より重要な要因となっていくのではないだろうか。

理念より実践――語る責任がより問われる時代へ

2000年代初頭に企業の社会貢献(CSR)が経営課題として浮上して以降、「安心できる社会」「地域密着・お客様第一」「社会から信頼される企業」など、社会性や信頼・共感をブランドアイデンティティの中心に据え、持続可能な社会の理念を対外的に掲げて積極的に発信する企業が増加してきた。

しかし一方で、ここ数年、こうした企業による公的制度の意図的な歪曲、不正利用、公共環境への実害など、生活者が日常的に依拠する社会的信頼を揺るがす事態も相次いで発覚している。

広告やPRで社会貢献や環境配慮を強調していた企業の理念と行動の不一致が露呈し、結果として消費者に「何を信じて買えばよいのか」という選択疲労をもたらしてしまう。

これらの出来事は、意図せぬ信頼の崩壊がどの企業にも起こり得るリスクであることを、改めて社会に示している。

先行研究では、企業が長期的に持続可能な目標を掲げながらも、短期的な誠実さに欠く行動が問題視される現象を「フューチャーウォッシュ(Future washing)」と呼び、そのリスクを指摘している。

本来は消費者と希望を共有するはずのメッセージが、実行段階で裏づけを欠くことで、結果的に信頼を損なうリスクへと転じてしまう。

ここで懸念されるのは、理念や未来志向の発信が、実践や制度運用の整備を十分に伴わないまま先行した結果、意図せず問題が露見してしまい、「結果として」消費者には問題の実態を隠す構造として映りかねない事態である。

特に、社会的責任を強く打ち出し、濃密でポジティブなブランドイメージを形成している企業ほど、信頼が裏切られた際の消費者の失望・反発は大きい。

企業の社会貢献が前提とされる時代において、ブランドの理念や言葉と行動の一貫性がこれまで以上に厳しく問われているとも言えるだろう。

グリーンウォッシュの再定義――情報操作から関係性のゆがみへ

環境分野に目を向けると、グリーンウォッシュ(Greenwashing)問題は以前から指摘されてきた。

グリーンウォッシュとは、サステナビリティの中でも特に環境分野における取り組みを、誇張・虚偽・選択的開示によって実際よりも良く見せる行為のことを指す。

この問題は長く、虚偽や誇張といった企業の発信する情報の信頼性の問題として扱われてきたが、近年の研究では、これは単なる情報操作の問題ではなく、企業と社会の関係性そのものの「ゆがみ」として理解されるようになっている。

たとえば、投資家向けには積極的なESG姿勢を示す一方で、消費者から見えにくい現場では取引先への過度なコスト抑制を優先する、といった形で情報の非対称や乖離が生じることがある。

こうした実態が社会に漏れ出てしまうと、社会全体から企業への不信を呼び「いったいどの言葉を信じればよいのか分からない」状態に陥る。

先行研究では、この状態を「関係のひずみ」のグリーンウォッシュとして整理している。

この場合、その対策の本質は「虚偽をしないようにする」こと以上に、社内の従業員や取引先を含めた各ステークホルダー間で整合性ある行動を促していくことになる。