スウォッチ誕生の背景にセイコーの「クオーツ時計」

スイスといえば、チョコレート、チーズ、そして時計です。

時計はスイスの国民性を表す象徴であり、その歴史と伝統は世界中の人々を魅了してきました。

しかし、その輝かしい歴史は、1980年代に未曾有の危機に直面します。

危機をもたらしたのは、日本の時計メーカーが開発した安価なクオーツ時計でした。

特にセイコーに代表される日本のクオーツ時計は、機械式時計では到底敵わない正確さを誇り、しかも大量生産が可能で、価格も圧倒的に安かったのです。

手作りの精巧さや美しさを誇っていたスイスの機械式時計は、この波に太刀打ちできず、多くのメーカーが倒産に追い込まれました。

この絶体絶命の危機を救ったのが、スウォッチでした。

スイスのメーカーは、日本の技術であるクオーツをあえて取り入れ「ファッション感覚で楽しめる低価格な時計」という、まったく新しいコンセプトの時計を生み出しました。

「スウォッチ」という名前は、「スイスウォッチ」ではなく「セカンドウォッチ」の略だと言われています。

それは、高価な本格時計とは別に、気分やファッションに合わせて気軽に買い替えられる、第二の時計という位置づけを表しています。

何千ものデザインが次々と登場し、時計は単に時間を知る道具から、自己表現の手段へと変貌を遂げたのです。

この斬新なアイデアは世界中の消費者に熱狂的に受け入れられ、1983年の発売初年度で100万本以上を売り上げ、90年代初頭には年間売上がその約20倍にまで急増しました。

スウォッチの爆発的な成功は、スウォッチグループの財政基盤を強固なものにし、苦境に喘いでいた高級ブランドの再建や買収を可能にしました。

カラフルで楽しい時計を買い求める人々によって、スイス時計業界全体は息を吹き返したのです。