日本人はどこで最期を迎えているのか?
そもそも日本人はどこで最期を迎えているのだろうか。下の図表は厚生労働省「人口動態調査」に基づき、1951年から2023年までの死亡場所別死亡者数を年別に整理したものである。2023年をみると、病院・診療所での死亡(以下、病院死と呼ぶ)(約104万人)が最も多い。一方で、老人ホーム・介護医療院・介護老人保健施設での死亡(以下、施設死と呼ぶ)(約25万人)や自宅での死亡(以下、在宅死と呼ぶ)(約27万人)も決して少なくない。死亡場所の構成比について経年変化を確認すると、1950年頃から2000年頃にかけて病院死の割合が増加し在宅死の割合が減少していたことが分かる。一方で、病院死の割合は2000年(81.0%)から2023年(65.7%)にかけて低下している。また、施設死の割合は2000年(2.4%)から2023年(15.5%)にかけて増えており、在宅死の割合も2000年(13.9%)から2023年(17.0%)にかけて増加している。
2010年頃から死亡場所割合が変化している理由は何か?
1950年頃から2000年頃にかけて死亡場所の構成比において病院死割合は増加し、在宅死割合は減少するが、その理由について村田(2013)は1961年の国民皆保険の実現などから「医療保障制度の仕組みがわが国全体に浸透していくとともに、受診・受療行為は身近なものとなって」いったことを挙げている。また、孔(2020)は「1973年に老人医療費無料化などの施策が打ち出されたことによって、高齢者を病院に集める動きが活性化」したと指摘している。新村(2001)は「核家族化や女性の社会進出によって家族介護が減少」したことを示している。蘆野(2008)は「1980年代には延命治療の技術が進歩したことで、病院医療に対する期待感が強く」なり、「病院に勤務する医師も『死は医療の敗北』と考え」て「入院治療を誘導した」と指摘している。
死亡場所の構成比の変化には「社会環境(状況的要因)」と「国民意識(属性的要因)」という大きく2つの要因が作用していると考えられるだろう。それでは、施設死と在宅死の割合が2010年頃から高まり、また、病院死の割合が2010年頃から低下してきている理由についてはどのようなものが考えられるだろうか。本稿では「社会環境」変化という観点で、特に介護の視点から検討したい。
▼施設死割合の増加:
初めに、死亡場所の構成比において施設死割合が上昇する理由を社会環境変化の観点から考える。まず、2000年に創設された介護保険制度の定着などに伴う高齢者向け施設数の増加が挙げられるだろう。以下のグラフは2012年から2022年までの高齢者向け施設・事業所数の推移を年別で示したものだが、その数は増加傾向にあることが分かる。
高齢者向け施設数が増え、利用者数が増加する中で、施設での看取り体制が整備されてきたことも割合上昇理由の1つと考えられるだろう。厚生労働省は2024年、高齢者向け施設が提供可能な医療処置について施設種類ごとの割合を調査した。外部医療機関の支援などを受けながらターミナルケアの提供が可能な施設の割合は、介護老人福祉施設で78.4%、介護老人保健施設で77.8%、介護医療院で95.7%などとなっている。
厚生労働省は2014年に施行した医療介護総合確保推進法などに基づき地域包括ケアシステムの確立を推進している。施設差・地域差はあれど、医療・介護の連携体制などが経年的に進展する中で、従来、高齢者向け施設から医療機関へ搬送され最期を迎えた入居者を、医療のサポートのもと施設内で看取る体制が整ってきていることは考えられそうだ。
また、介護報酬改定で施設での看取りに関する要件拡充などが進められてきたことも理由の1つに挙げられるだろう。2006年度の介護報酬改定では介護老人福祉施設などに看取り介護加算が創設された。2009年度改定では介護老人保健施設などにターミナルケア加算が新設されている。最近では2021年度の介護報酬改定で、従来、死亡日30日前から算定された看取り介護加算・ターミナルケア加算が45日前から算定されることとなっている。こうした要件拡充の背景について、村田(2013)は2000年代の介護保険制度の動向を論じる中で「増大する医療費を抑制しなければならない観点から始められた医療提供体制の改革は、介護保険制度の推進という形で進められ」たと指摘している。また、佐々木(2022)は2020年頃までの介護保険制度の動向を論じる中で「エイジング・イン・プレイス(歳をとって身体的に衰えても、住み慣れた場所・環境や住まいで、最期まで自分らしく暮らす)という概念がクローズアップされ、それを支えるための仕組みづくりが行われてきた」と示している。社会保障制度の枠組み変化などによって、施設看取りの標準化が促進されてきていることは考えられそうだ。