(ブルームバーグ):プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資業界はジレンマに直面している。投資回収の主要な手段である新規株式公開(IPO)市場は徐々に再開しつつあるものの、全保有株を売却して完全に資金を回収できるほどではない。
一方、出資先企業に借り入れをさせて資金を調達すると、そのバランスシートに債務が積み上がり、株式投資家を警戒させてしまう。
PE投資会社のヘルマン&フリードマン(H&F)はそこで、創造的な方法を取った。
同社は先月、防犯関連企業ヴェリシュアのIPOを通じて同社への出資比率を引き下げるとともに、残りのヴェリシュア株を保有する特別目的会社(SPV)を簿外に設置し、このSPVを通じた債券発行により10億ユーロ(約1780億円)を調達した。
アナリストによれば、この手法は、超低金利時代に行った投資からの現金回収に苦戦する他の買収ファンドのモデルとなる可能性がある。
ホワイト&ケースの資本市場担当パートナー、ジョナサン・パリー氏は「プライベートエクイティー投資会社は、早期にリターンを確保するためにより創造的な手段を模索している」と述べ、「現在は、IPOで保有株の大部分を売却できる段階にはない」と指摘した。
今回の仕組みにより、H&Fは本格的な株式売却による利益実現の前に、先行して現金を手にすることができる。
業界の課題として、投資家が多額の負債を抱えたPE会社出資先企業の株式購入に慎重なために、PE会社が持ち分を長期間保有せざるを得ない状況がある。
近年では、IPOで新株発行を中心に資金を調達し、その資金で債務を削減する戦略が広がっている。債務負担を軽くすることで株価の上昇を促し、PEファンドが市場で段階的に持ち株を売却していく戦略だ。
債券による資金調達はヴェリシュア本体の資本構成とは切り離されており、同社のレバレッジ比率を押し上げることはない。取引は、ヴェリシュアの負債削減と、株式市場の投資家に対する魅力向上を目的とした包括的な計画の一環でもあるという。
ヴェリシュアの取引はモルガン・スタンレー主導で組成された。H&Fおよびモルガン・スタンレーの担当者はコメントを控えた。
関係者によれば、ヴェリシュア株が値上がりすれば、H&Fはロックアップ期間の終了後に保有株式(約44%)の一部を市場で売却し始める可能性がある。
ヴェリシュア株は上場以来、約20%上昇しており、好調なスタートを切っている。同社のIPOは欧州では2022年以降で最大だった。
フォックス・リーガル・トレーニング創業者でレバレッジドファイナンスの専門家サブリナ・フォックス氏は「クレジット市場は熱気を帯びており、革新的な手法が生まれる素地がある」と語った。
原題:Private Equity Is Finding New Ways to Cash Out After IPOs (1)(抜粋)
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