公表内容~データ加工のメリットとデメリット
事業者が関連情報を詳細に報告しているのに対して、公表内容は、売上高や製造数量といった発生原単位当たりの食品廃棄物等の発生量と再生利用等実施率及び、これら数値の改善のために取組に関する情報、並びにフードバンクへの提供量に限られる。
食品廃棄物等の発生量そのものではなく、食品廃棄物等の発生量と密接な関係をもつ数量(発生原)単位当たりの食品廃棄物等の発生量を開示することで、事業規模が異なる事業者間の比較や、事業規模が大きく変化した同一事業者の取り組みを時系列で評価することが容易になる。
しかし、目標設定上は業種毎に発生原が定められているものの、報告上の発生原は各事業者の裁量に委ねられているため、必ずしも事業者間の比較が容易でないケースもある。発生原が売上高など物価の影響を受ける場合は、時系列比較の適切性が損なわれる。
また、再生利用等実施率の算出方法は複雑で、以下A、B、D及びCの95%の合計をAとEの合計で割って求めている。A~Eそれぞれ有用な情報で報告されているが、再生利用等実施率の公表だけではそれぞれの値を知ることはできない。
A:当年度における発生抑制の実施量(推定値)
B:再生利用(食品循環資源を肥料、飼料等の原材料として利用するなど)の実施量
C:熱回収(食料循環資源を適切な方法で熱を得ることに利用するなど)の実施量
D:減量(脱水、乾燥などの方法により食品廃棄物等の量を減少させること)の実施量
E:当年度の食品廃棄物等発生量
Aは食品廃棄物等発生量を抑制する取り組みの結果、食品廃棄物等発生量をどれくらい抑制できたかを推定した値である。発生原単位当たりの食品廃棄物等の発生量の変化(2007年度比)に今年度の発生原を乗じて推計するが、多くの業種、事業者が発生原として売上高を採用している。
上述の通り、売上高は物価上昇の影響を受け、昨今は物価上昇が著しい。このため、近年の発生抑制の実施量(推計値)と再生利用等実施率は実態から乖離(過大評価)しているのではないかという疑念が残る。
国民が理解しやすいように情報を加工することは好ましいが、加工によって情報欠損が発生する。加工方法に疑念が生じても、加工後のデータだけでは補正できない。加工後のデータだけではなく、加工前の元データも併せて開示することが望ましい。
公表内容~食品ロス関連情報
食品廃棄物等と食品ロスは異なるのに、公表データは食品廃棄物等に偏っている。このため、食品ロスに関心がある人は、公表内容から知りたい情報を得ることができない。
そもそも、食品廃棄物等の発生量及び食品循環資源の再生利用等の状況の報告を義務付けているが、これに食品ロスに関する情報は含まれていない。
実は、事業系食品ロス量を推定するために、定期報告を行った事業者を対象に別途「可食部・不可食部の発生量等に関するアンケート調査」を実施している。
SDGsが採択され食品ロスに注目が集まる以前から、食品リサイクル法は存在し、食品廃棄物等の発生量及び食品循環資源の再生利用等の状況の報告義務があった。
従前からの報告及び公表体制を温存、活用することで、効率的に事業系食品ロス量を推計する体制を整えたと評することもできるが、食品ロスに対する関心が高まれば、食品ロスに関する情報開示の必要性も高まる。
関連情報の報告体制や、事業系食品ロス量を推計する体制の見直しの検討が求められる。
国は食品関連事業者の取り組みを国民が知り、評価できるよう任意開示用の統一フォーマット作成を検討することになっているが、任意開示用の統一フォーマット作成の検討と併せて、公表対象事業者の範囲、情報アクセスや情報処理の効率化に資するデータの構造化、公表内容などについても、検討が進められることが期待される。
※なお、記事内の「図表」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡和佳子)