切り札はプレコンセプションケア

日本肥満学会によると、FUSに対する今後の方向性として、ガイドラインの策定、健診制度への組み込み、教育・産業界との連携、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)との連携による総合アプロ―チを掲げている。

今回、公表された報告書内では言及されていないが、筆者はこれらの実効性を高めるにあたり、プレコンセプションケア推進の動向が鍵を握るのではないかと考えている。

日本では、2021年の成育医療等基本方針が閣議決定され「男女ともに、性や妊娠に関する正しい知識を身に着け、健康管理を促すようプレコンセプションケアの推進を含め、切れ目のない支援体制を構築」する旨が明記された。

2024年には経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)にて、「相談支援等を受けられるケア体制の構築等プレコンセプションケアについて5か年戦略を策定した上で着実に推進する」旨が盛り込まれ、2025年には子ども家庭庁より「プレコンセプションケア推進5か年計画」が公表された。

この計画では、国・地方公共団体・企業・教育機関・医療機関等が一体となり、性や健康、妊娠に関する正しい知識の積極的な普及と情報提供に取り組む方針が示されている。

2025年現在では、助産師会から講師を派遣して教育機関で妊娠に関する正しい知識教育が実施され、企業では外部講師を招いて女性ホルモンの変動や婦人科疾患に関する勉強会等が実施されている。

FUSの様な低体重・低栄養状態では、女性ホルモンの減少や卵巣機能の低下を招き、無月経状態が不妊症リスクを高める要因となる可能性がある。

将来の健康的な妊娠を見据えた事前の健康管理であるプレコンセプションケアに関する取組みは、FUS状態に気付く機会となり、早期の受診につながる可能性が期待できる。

また、FUSの対象年齢である18歳~閉経前(閉経年齢の平均50歳)の女性が所属する大学や企業の定期健診のデータと紐づけられるとFUSを発見しやすくなるため、産業保健分野との連携も重要な視点となる。プレコンセプションケアの展開は、今回新たに提唱されたFUSの早期発見・改善などの有益な対策のひとつになり得よう。

(※なお、記事内の注記については掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください)

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾愛)