本稿では、2025年4月17日に日本肥満学会が提唱した18歳から閉経前の女性における低体重・低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)という新たな疾患概念について概説している。
FUSは、「低体重または低栄養の状態を背景として、それを原因とした疾患・症状・兆候を合併している状態」と定義されており、関連する健康障害としては「低栄養・体組成の異常」、「性ホルモンの異常」、「骨代謝の異常」、「その他の代謝異常」、「循環・血液の異常」、「精神・神経・全身症状」等がある。
FUSの原因には、(1)体質性痩せ、(2)SNS,ファッション誌などのメディアの影響による痩せ志向、(3)社会的経済的要因・貧困などによる低栄養と大きく分けて3つの視点がある。
FUSの様な低体重・低栄養状態では、女性ホルモンの減少や卵巣機能の低下を招き、無月経状態が不妊症リスクを高める要因となる可能性がある。将来の健康的な妊娠を見据えた事前の健康管理であるプレコンセプションケアに関する取組みは、FUSの早期発見・対応につながる可能性がある。
日本肥満学会は、2025年4月17日に記者会見し、18歳から閉経前の女性における低体重・低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)という新たな疾患概念を提唱した。
日本では、BMIが18.5未満のいわゆる痩せ状態にある若年女性が先進国の中でも特に高率であり、その背景には、SNSやファッション誌などに影響を受けた痩せ願望や、体重に対する厳格な認知やボディーイメージの歪みがあることが認識されている。
また、近年では、2型糖尿病の治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬(通称、GLP-1)に食欲抑制効果や体重減少効果が認められることから、本来の適用である肥満症かつ高血圧や脂質異常症又は2型糖尿病に該当しない者が美容・痩身・ダイエット目的で使用する適用外使用の例が散見されている。
GLP-1は処方箋医薬品であるものの、インターネット上で個人輸入という形で海外通販サイトから入手する例もあり、不必要な低体重状態に陥る症例が認められ問題になっている。
現在の日本の公衆衛生施策では、健康日本21による生活習慣病対策や特定健康診査・特定保健指導など肥満症対策に重点が置かれているため、低体重や低栄養などのいわゆる痩せ状態の者に対する系統的アプローチが不十分な状況にあることが分かっている。
この様な現状を踏まえ、日本肥満学会は、6つの学会と共同してワーキンググループを立ち上げ、体調不良を伴う低体重・低栄養状態の者(以降、FUS)に対する診断基準や予防指針の整備を進める方針を示した。本稿では、この新たな疾患概念であるFUSについての概要を簡単にご紹介する。