ガソリン価格の高止まりが続くなか、政府はガソリン価格抑制のための補助金制度を変更し、5月22日から新制度がスタートした。その内容を確認したうえで、暫定税率廃止の論点も交えつつ、今後の価格展開を考える。
新たなガソリン補助金制度について
ガソリン補助金185円から再び引き下げへ、迷走する政府の思惑
政府は2022年1月にガソリン価格の高騰を受けて補助金制度を開始し、その後、延長を繰り返しつつ、制度の内容を幾度も変更してきた。
石油元売り会社に対して政府が補助金を支給することで出荷価格の抑制に応じてもらい、小売価格の抑制へと波及させるという骨組み自体は変わらないものの、今回スタートした新制度は従来の制度とは効果が異なる。従来の制度は基本的に価格を一定の目安に抑える仕組みとなっており、直近5月21日までの制度では、レギュラーガソリンの小売価格(以下、単にガソリン価格)を1リットル当たり185円に抑制する形が採られていた。しかし、今回の新制度では、段階的に補助額を拡大し、最終的には1リットル当たり10円の定額補助になる。
今回の制度の継続期間については、去年12月に自民・公明両党と国民民主党の幹事長が「廃止」で合意し、以降検討が難航している「ガソリン税の暫定税率」について、「結論が得られてそれが実施されるまで」の間とされている。
今年の年初以降、原油価格の下落を受けて補助金考慮前(以下、補助なし)のガソリン価格が下落し、4月には当時のガソリン補助金制度の目標水準である185円に概ね近似したことで、ガソリン補助金の支給額はほぼゼロとなっていた。そうした中、今回、定額支給型の新制度が開始されたことで、ガソリン価格はさらに押し下げられている。今月22日以降の1週間には補助金が1リットル当たり7.4円支給され、直近26日のガソリン価格は177.6円にまで下落している。
政府は、昨年の12月以降、ガソリン補助金制度の目安となる価格を175円から185円へと引き上げていた。それにもかかわらず、今回再び価格を185円から引き下げる措置へと切り替えたのは、チグハグ感が否めない。穿った見方かもしれないが、政権の支持率が低迷するなかで参院選が迫ってきたため、支持率向上に向けてガソリン価格を再び引き下げる意図があったのではなかろうか。
原油価格と円相場から見るガソリン価格
今回、ガソリン補助金制度が10円の定額補助に変わったことで、ガソリン価格の変動は必然的に大きくなる。
本来、ガソリン価格は主に原油価格と円相場の動きを反映して動く。具体的には、原油安や円高の際には、原油の輸入価格が押し下げられ、ガソリン卸売価格の下落を通じて小売価格に下落圧力が波及する。原油高や円安の際はその逆になる。
しかし、既述の通り、従来の補助金制度は基本的にガソリン価格を一定の目安水準に抑える仕組みであったため、政府が目安水準の変更を行った時期を除き、ガソリン価格の変動はごく小幅に留まっていた。それが、今回定額補助に変更されたことで、今後は原油価格と円相場の動きがガソリン価格に直結することになる。
そこで、最近の状況を基に、原油価格(ドバイ原油・ドル建て)とドル円レートの組み合わせごとに、10円の定額補助を反映したガソリン価格を試算した。
筆者の中心的な見通しでは、トランプ関税やトランプ政権を巡る不確実性が原油需要の重石となる一方、加盟国の規律回復を目指すOPECプラスはしばらく増産を続けるとみられ、原油需給が緩んだ状況になることを受けて、今年年末時点のドバイ原油価格は1バレル62ドル(直近29日時点では65ドル台)と見込んでいる。また、米景気の低迷を受けてFRBが段階的な利下げを実施することなどを受けて、年末時点のドル円レートは1ドル140円(直近29日時点では145円台)と予想している。この場合、ガソリン価格は1リットル169円となり、直近26日時点の177.6円から10円弱下落することになる。
ただし、下振れ・上振れリスクも相応にある。
主な下振れリスクとしては、世界経済の失速が挙げられる。トランプ関税を発端に貿易摩擦が拡大し、米国を始めとする世界経済が失速すれば、原油需要の急減によって原油価格は大きく下がるとともに、FRBの急ピッチの利下げによってドル円は大幅な円高になるだろう。仮にドバイ原油が1バレル40ドル、ドル円レートが1ドル130円に下落すると想定すると、ガソリン価格は1リットル145円まで下がることになる。
逆に、主な上振れリスクとしては、地政学リスクに伴う原油供給の減少が挙げられる。今後、米国とイランの核合意を巡る協議が決裂して米・イスラエルとイランとの対立が激化し、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の通行に支障が出たり、ロシアとウクライナの停戦協議が難航して米国がロシアの原油産業への制裁を大幅に強化したりすれば、原油価格は急騰しかねない。
例えば、世界銀行が2023年10月の報告書で示した試算では、2003年のイラク戦争並みの供給減シナリオ(2023年の供給量の約3~5%減)では原油価格が初期段階で21~35%上昇、1973年のアラブ諸国による石油禁輸措置並みの供給減シナリオ(2023年の供給量の約6~8%減)では、初期段階で56~75%上昇するとされた。
仮に、今後ドバイ原油価格が足元から約40%(上記両シナリオの中間程度)上昇し、1バレル90ドルになると仮定すると(ドル円は1ドル140円と想定)、ガソリン価格は1リットル197円となり、過去最高値(186.5円)を大きく上回ることになる。政府はガソリン補助金の拡大を検討せざるを得なくなるだろう。