農産物問題
赤澤大臣は、日本側からの条件として、大豆・とうもろこしの輸入拡大を提案したと報じられている。対中貿易で、この大豆・とうもろこしは米国側にとって、高関税の応酬によって輸出できなくなった品目だという。中国向け輸出ができなくなった分の一部を日本が購入するという条件は、米国にとって魅力的な提案に違いにあるまい。
日本の農産物輸入は、大豆3,097億円、とうもろこし6,890億円と大きな輸入額に達している(2023年度)。その中ですでに米国はシェアの大きい輸入先である。ほかにも、小麦の輸入分(2,711億円)の約半数は米国からの輸入であるが、今回、小麦の輸入拡大は提案されなかったようである。
むしろ、焦点とみられていたのはコメである。確かに、日本では、コメの小売価格が高騰して、政府は備蓄米を放出して価格を引き下げようとしている。ここに、米国産のカリフォルニア米の輸入拡大を行って、小売価格を引き下げようというアイデアは、Win-Winの関係にも思える。しかし、国内のコメ農家には、需給バランスが崩れることを警戒する声もあるので、コメ輸入はカードとして使わなかったようだ。
とはいえ、すでに放出した備蓄米の買い戻しを国内からではなく、米国からのコメ輸入で行うという手はあるだろう。2023年度のミニマムアクセス米は77万トンとされる。これを拡大して、米国からの輸入量を増やすということは検討してもよいのではないか。備蓄米100万トンも非常に多い数量に思えるが、国内消費仕向量823.5万トンと比べると、僅か12%である。これを日数換算すると、44.3日分(=100万トン÷823.5万トン×365日)に限定される。備蓄米を少しだけ多くして、ミニマムアクセス米の輸入量を増やすことは、国内のコメ農家を犠牲にすることにはならないと思うが、この対案はどうだろうか。
6月のカナダG7が照準
日米関税交渉の次回協議は、5月中旬以降という。おそらく、6月半ばのカナダG7で石破首相がトランプ大統領と会談することを念頭に置き、早ければそこでの合意を目指すつもりだろう。しかし、自動車関税での譲歩が引き出せないと、そこでの妥結は難しいのではあるまいか。繰り返しになるが、石破政権は7月中旬に参議院選挙を控えていて、6月に安易な妥協をしたとみられることを警戒している。
日本からは、各種の農産物の輸入拡大を米国側にさらに提案する可能性があるが、その条件だけで米国側が自動車、鉄鋼・アルミの25%の関税率引き下げに応じるかどうかはわからない。米国側は、米国製の自動車部品を使用する割合に応じて、各国に対していくらか自動車関税を減免することを検討しているから、その案と独立させて日本に対してだけ自動車関税25%を引き下げるという訳にもいかないのかもしれない。そう考えると、6月の会談では決着できず、自動車などは交渉持ち越しになる可能性がある。
相互関税のベースラインになっている10%の基準関税も行方が不透明である。米国が交渉する相手国には、上乗せ分の関税率がなく、10%の関税率の引き下げを求めている国々もある。そうした国々に対しても、「10%は基本フォームだから引き下げられない」と説明し続けることは無理があるだろう。逆に、これらの国々が先行して10%の税率を引き下げることが実現できれば、日本もそれに倣って10%よりも引き下げる方策が見つかるだろう。この点でも、日米関税交渉はゆっくりと急がずに進めた方が賢明である。
(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野英生)