現在の管理職の働き方に関する課題~定年後研究所・ニッセイ基礎研究所の共同研究より~
管理職経験者のうち職場に何らかの課題を感じている人が8割
ヒアリング調査では、求職側である現職の女性管理職には、柔軟な働き方に対する大きなニーズがあることが分かった。それでは、現状では、管理職の働き方にどのような課題があるのだろうか。
定年後研究所とニッセイ基礎研究所が2023年に行った共同研究で、現在、管理職を務めている中高年女性に「管理職として働く上での課題」を尋ねたところ、約3割の管理職女性が「労働時間が長くなり、家庭との両立が困難」と回答し、働き方が大きな課題になっていることが分かる。
また、「これまでに会社に女性管理職がほとんどおらず、ロールモデルがいない」(21.8%)や「経営トップが、女性登用の意義や必要な体制について十分理解していない」(20.2%)など、組織運営や組織風土面で、管理職の女性が働きづらさを感じていることが伺える。これらの回答を含めて、管理職の働き方に何らかの課題を感じている女性(全体―「特に課題は感じていない」)は約8割に上った。

長時間労働は中高年女性会社員が管理職に就きたくない理由の第3位
同じく共同研究によると、管理職が長時間労働であることは、中高年女性のうち、「管理職になりたくない」と思っている女性のうち約3割が、その理由として挙げている課題でもある。つまり、管理職の長時間労働が、女性登用のボトルネックにもなっていると言える。

おわりに
2016年の女性活躍推進法施行以来、国内では女性管理職比率を上げることに注目が集まってきたが、実際に女性が管理職に就任した後の課題については、まだ議論が深まっていない。これまで管理職は男性中心だったため、例えば、管理職で長時間労働が続いていることや、会議を夕方から始める、経営トップとの打ち合わせは対面が原則――といった従来型の働き方が続いていても、あまり問題は生じなかったのかもしれない。しかし、管理職の働き方が変わらないまま、家事育児負担が重い女性が登用されると、負荷が過大になり、非管理職のときには無かった両立の壁が生じ、勤め続けることが困難になる可能性がある。また、現在の若い女性の中には「管理職の仕事が嫌なのではないが、現在の管理職の働き方を見ていると、自分にはできないと思う」という意見を持つ人もおり、管理職の働き方の見直しは、大きな課題だと言える。
本稿で紹介した女性管理職や予備軍の転職の増加は、こうした課題の裏返しと言える。近年、社会の潮流によって、女性が自身のキャリアについて見つめ直すようになり、キャリアへの意欲も強まってきたのに、現在の職場だと、働き方などの問題で管理職として働くことが難しいと映れば、社外に目を向ける女性が増えるのは当然だろう。
こうした課題を背景とした、管理職や予備軍の女性たちの転職市場の活発化は、新たに、「働きやすさ」などを基準とした女性人材の争奪戦を生じさせる可能性がある。企業が管理職の働き方に目を向け、対策を取らなければ、今後、管理職層の女性人材は、ダイバーシティ経営が浸透した企業に集中していくかもしれない。
近年は、若い男性にも、自ら育児をしたいという意識は強まっており、長時間労働である管理職昇進を敬遠する傾向がある。従って、企業にとっては、女性管理職が働きやすい職場を整備することは、次の世代の男性管理職を確保することにもつながるだろう。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子)