女性管理職のヘッドハンティングや人材紹介の活発化~ヒアリング調査より~

次に、実際の転職市場の最新の動向について、筆者が昨年12月から今年1月までに、ヘッドハンティング会社と人材紹介会社計3社に行ったヒアリング調査を報告する。

1│パソナ
総合人材サービス大手の「株式会社パソナ」(本社・東京都港区)は、転職支援サービス「パソナキャリア」を提供しており、女性活躍推進法が施行された2016年から女性管理職採用支援を強化している。近年は女性管理職の求人件数と求職者数がともに増加し、2023年の女性の求職者数(サービス登録者数)は2017年比で約2.3倍、成約数は2018年比で約3倍に増えた。地方別にみると東京圏が圧倒的に多く、業種別では製造業からの依頼が多い。年代別では、30~40歳代がボリュームゾーンで、子がいる女性も半数ほどいる。転職後の報酬は、前職と同等かそれ以上だという。

求人を出す企業側の動機としては、前述のように、女性登用の圧力が強まっていることが大きい。企業は近年、女性の採用を増やしているものの、まだ育成途中であったり、登用手前で転職する社員がいたりと、女性管理職が不足しているという。一方、求職側の管理職層の女性たちにとっては、長時間労働ではないことや、在宅勤務やフレックスタイムなどの柔軟な働き方ができることが、転職の重要な条件になっている。同社が2023年、転職希望者629人(調査時点で管理職の人を含む)を対象にしたアンケートでも、「目指すキャリアを実現するために必要な環境」を尋ねると、男性は「スキルアップの機会」が54%でトップだったが、女性では「柔軟な働き方」が51%でトップだった。

現職の管理職層とは別に、現在は手前のポジションで働く“予備軍”の女性の成約も増えている。企業側が予備軍を採用する動機としては、会社理解を深めてもらってから昇進させたい、本人が仕事をしやすいよう実務経験を積んでから登用したい、という点が大きい。予備軍の女性たちの動機としては、現在働いている職場では女性管理職のロールモデルがおらず、管理職として働くイメージが持てないため、より女性が活躍しやすい職場に転職したい、といった点が大きい。

また、近年は女性側に、育児と仕事の両立に対する意識の変化が見られるという。7~8年前までは小さい子どもがいると、ハンデになるから転職は無理と考える女性が多かったが、最近では初めから、育児と仕事が両立できることを前提に、転職先を探す女性が増えたという。

常務執行役員の岩下純子さんは「日本企業は、経営側にアンコンシャスバイアスがあり、女性よりも男性をタフなポジションに配置するケースも少なくない。女性側も、現在の会社では家事育児との両立の難しさがあるため、そういうポジションに自ら手を挙げられない。結果的に、女性は男性よりも成長機会が少なく昇進しにくい、ということが起こる。現在、転職を希望している女性たちは、そのような環境から脱して、より活躍したいという思いが強いのではないか」と話す。

2│プロフェッショナルバンク
通常の人材紹介とは異なり、転職潜在層からの移籍実績も有するヘッドハンティング大手の「株式会社プロフェッショナルバンク」(本社・東京都千代田区)では、ここ数年で、様々な業種の大手企業から、管理職や管理職予備軍の女性のヘッドハンティング依頼が増加し、2023年の成約件数は2021年の2.6倍になった。採用後に女性が成果を出していることから、依頼をリピートする企業も多い。女性の年代は30歳代半ばから40歳代半ばぐらいが多い。

ヘッドハンティングを依頼する企業側には、女性管理職を採用するために、福利厚生などを充実させてアピールするところが多く、女性側も、より柔軟に働くことができ、活躍しやすい職場を求めているという。企業の中には、育児中の女性が管理職として働きやすいように、入社後に補佐する人員を配置して迎えるケースや、入社後に女性の意見も聴きながら、マネージメントを見直していくケースがあるという。

同社で事業を担当する大泉留梨さんは「ここ1、2年で、メディアで女性活躍に関する情報発信が増えたことで、女性たちにも、より正当な評価を求める意識や、キャリアアップに対する意欲が強まっている」と話す。

3│Waris
女性に特化した人材紹介サービスを手掛ける「株式会社Waris」(本社・東京都千代田区)は、2021年から女性役員の紹介を手掛けていたが、役員より下の管理職層の登用に関しても企業から相談が寄せられていたことから、2024年度から、管理職や管理職候補の女性人材を紹介するサービス「リーダーズキャリア」を開始した。上場企業からの依頼が多い。成約件数などは未集計だが、開始直後から多くの管理職女性たちが登録している。30~40歳代中心で、子育て中の女性も多いという。

共同代表の田中美和さんは「登録している女性は、現在の職場では管理職の労働時間が長く、悲鳴を上げている。仕事は好きで、成長意欲も旺盛だが、現在の職場では管理職として働き続けることが困難で、もう少し、管理職業務と家庭の両立に理解がある職場で働きたい、という女性が多い」と話す。

4│小括
3社へのヒアリング調査より、転職市場では、女性管理職を外部から採用して充当したいという企業側、より柔軟な働き方ができる職場に移りたいという女性側、双方の意識が強まっていることが確認できた。これは、3でみたように、統計上、管理職として転職する女性が増えている直近の傾向と合致する。合わせて、管理職手前の予備軍の女性の転職が増えている点も、統計上、「管理職以外」からの転職が増えているという事実と合致する。

しかし、そもそも現状で企業に女性管理職比率が少ない要因として、長時間労働や、在宅勤務ができないなど、働き方自体に課題があるなら、仮に外部から管理職のポジションに女性を採用できたとしても、すぐに離職してしまう可能性がある。従って、現状で女性管理職が少ない企業は、その要因を分析し、対策を考え、いずれは内部でも人材が育つようにしなければ、根本的には課題は解決しないであろう。

一方、繰り返し述べてきたように、現在、管理職として働く女性側には、「柔軟な働き方」への大きなニーズがあることが分かった。特に、コロナ禍を通じて、在宅勤務を利用できるようになった企業と、利用できない企業に分かれていることが、流動化を促している可能性があるだろう。

もう一つ、注目すべき点は、各社の担当者が指摘していた、女性側のキャリアへの意識の高まりである。「女性活躍」に関する情報が広まったことで、女性たちがより正当な評価を求めたり、キャリアアップへの意欲を高めたりしていることは、大きな前進と言える。特に、パソナへのヒアリング調査で確認した通り、旧来のように、子がいる女性たちが「育児があるからキャリアアップを諦める」のではなく、「育児しながらキャリアアップできる職場を探す」という意識に変化しつつあることは、当事者の昇進意欲の向上と、登用の増加につながる可能性がある。