少子化によって人手不足が悪化する一方、働くシニアが増加していることから、企業はシニアの活用に向けて、役割や評価・賃金体系の見直しに取り組んでいる。しかし、シニアの規模が大きい大企業などでは、役職定年などの雇用慣行によって、活用の仕組みがなかなか整わず、シニア社員のやりがい停滞やモチベーション低下につながっているところもある。
女性に関しては、やりがい停滞問題は、より根が深い。多くの場合、男性に比べて若い頃の職務範囲が狭く、家事育児負担によって働ける時間が制約されてきたことなどから、いわゆる“出世コース”から外れ、能力を十分発揮する機会が与えられないまま、定年に近づいているケースも多いと考えられるからだ。企業人事からみても、シニア男性の活用が優先課題で、人数が少ないミドルシニア女性の活用については、まだノープラン、というところが多いのではないだろうか。
働くシニア男性やミドルシニア女性の立場に立てば、仮に現在の職場でなかなか働く環境が改善されなかったとしても、転職市場に出て、より自分に合った職場を見つけることができれば、よりやりがいを持ち、賃金をダウンさせず、あるいは賃金をアップさせて、働き続けることができるかもしれない。中高年にもなれば、お金よりも他の基準が大事という人も勿論いると思うが、日本では、女性の老後の貧困リスクが高いことは事実である。老後の年金水準を上げるためにも、現役のうちに、賃金水準を上げるチャレンジをすることには意義があるだろう。
本稿はこのような問題意識に立ち、政府統計を用いて、最新の転職市場について、特に中高年層の状況に着目して分析する。そして、シニア男性やミドルシニア女性が、よりより就業人生を送るために、「転職」が現実的な選択肢になり得るのかについて考えたい。
人手不足により転職者数は上昇傾向 中高年層を積極的に活用する企業も
1│転職者数の推移
総務省の「労働力調査」より、転職者数の過去20年の推移を見ると、中期的な傾向は概ね男女共通である。2000年代半ばにかけていったん上昇し、リーマンショックが起きた2008年頃から減少傾向が続いた後、2010年代後半から上昇に転じ、2019年には男性165万人、女性187万人となってピークを迎えたが、コロナ禍によって再び減少。2022年からは再び上昇に転じ、経済社会活動が正常化した2023年には、男性151万人、女性177万人となって、ピーク時の水準に近づいている。コロナ禍という特殊事情で一時期停滞したものの、2010年代後半から上昇傾向になった要因としては、人手不足の悪化が大きいと考えられる。
男女別に見ると、おおむね女性が男性を上回っている。男性は女性に比べて、結婚・出産等を機とした離職経験が少なく、正社員・正規職員としての長期雇用が多いためだと考えられる。女性の場合は、結婚・出産等を機とした離職が多く、その後は、パートなどの非正規雇用で働く人が多い。非正規雇用に就くと、勤続年数が延びても昇給幅が小さいため、転職のハードルが低くなると考えられる。
