3│転職後に賃金アップする割合はどれぐらいか

次に、働く人にとって条件の良い転職がどれぐらいあるかをみるために、厚生労働省の「雇用動向調査」のデータを用いて、転職による賃金の変化についてまとめた。転職者(1年以内に離職経験あり)のうち、パートなどの短時間労働者を除く一般労働者について、前職よりも賃金が「増加した」と回答した人(以下、「増加層」)の割合の推移を男女別、年齢階級別(20歳から59歳までの5歳ごと)にみてみる。

まず男性の場合は、概ね、若いほど増加層の割合が大きい。2012年から2023年までの変化を見ると、いずれの年齢階級でも増加層は拡大しているが、特に40歳代前半までの増加幅は10ポイントから20ポイント前後と大きい。直近の2023年には、「20~24歳」と「25~29歳」では増加層が半数を超えたほか、「30~34歳」でも半数近くに達した。「50~54歳」でも約3割が増加層だった。

女性の場合、賃金増加層の割合は、最も若い20歳代が上位、50歳代が下位であることが多いが、男性ほど、年齢階級の上昇による低下傾向が鮮明ではない。直近の2023年でみると、増加層の割合が大きかった順に、1位「20~24歳」(47.6%)、2位「30~34歳」(46.5%)、3位「40~44歳」(43.2%)、4位「55~59歳」(38.6%)となっている。

2012年から2023年までの推移をみると、「35~39歳」を除くすべての年齢階級で増加層が10ポイントから20ポイントの大幅増となった。増加幅が最大だったのは「55~59歳」(20ポイント)だった。「55~59歳」については、2022年の増加層が48.5%とほぼ半数に上っており、近年の飛躍が顕著である。つまり、50歳代の女性にとっても、転職が、有力な選択肢になりつつあることを示唆していると言えるのではないだろうか。なお、女性の中で「35~39歳」のみ過去12年の増加幅がマイナスとなった理由は明らかではないが、この年代層は家事育児と仕事との両立に忙しいため、賃金アップよりも「柔軟な働き方ができること」を基準に、転職先を選んだ人が多い可能性も考えられる。

中高年女性にも転職のハードルは下がってきた

これまでみてきたように、人手不足の影響で、近年、転職市場が活発化し、2023年の転職者数はピーク時に迫っている。人材流動化を担っている主役は若年層かと思いきや、近年の転職者の属性を紐解くと、中高年の割合が増加し続けていることが分かった。正規雇用の転職も、中高年にも広がってきた。転職によって賃金アップする人の割合は2023年、20代男性では過半数、20~30歳代前半女性でも4~5割となっており、転職で得られるメリットも、全体的に大きくなっている。

女性に限っても、35歳以上で正社員に転職する人は近年、増加している。50歳代女性でも転職によって賃金アップする人の割合は増えてきており、中高年女性にも、転職のハードルは下がってきたと言えるだろう。

働く人にとっては、現在の職場に行き詰まりを感じている場合は、就業環境を好転させるための選択肢として、転職に目を向けても良いのではないだろうか。長寿化によって、私たちの就業人生は伸びている。高齢期まで働き、ハリのある生活を続けるためにも、やりがいを感じられる職場を見つけることは重要だろう。

近年、ダイバーシティ経営を掲げて、「シニアの活用」や「女性活躍」に着目する企業は多いが、「シニア」と言えば男性、「女性」と言えば若い女性が想定されることが多く、結果的に「中高年女性」の活用については、抜け落ちているように筆者は感じてきた。本稿を通して、中高年女性は、内部労働市場で活躍の機会が少なくても、外部労働市場に出れば、活躍のチャンスが得られる可能性があることが見えてきた。政策的にも、中高年期の女性のチャンスを広げることは、女性の老後の貧困リスクを下げるために、重要な課題だと言えるだろう。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子)