逆転のカギは“再審査”と民事訴訟…「答えを外さない」日鉄・橋本会長の手腕
「期限の延長で、ある種の“再審査”に近いプロセスが始まり、トランプ新大統領に対して提案をする動きがあるのであれば、日鉄側にとっての“逆転の道筋”が見える、と考えることもできる」
また、クリーブランド・クリフス社や全米鉄鋼労働組合(USW)を日鉄側が訴えた民事訴訟を通じて新たな情報が明らかになり、それがバイデン氏の不正と心証付けられるのであれば「トランプ氏の心に働きかける可能性もある」と広野さんは指摘します。
官僚的な体質と評されることもある日鉄。その日鉄をUSスチール買収によって粗鋼生産量世界第3位の鉄鋼メーカーの規模に押し上げるという野心的な構想は、橋本会長の経営手腕によるところが大きいと広野さんは説きます。

「橋本さんが日鉄の社長に就任したのが2019年4月で、翌年の決算で4300億円の大赤字が出るというタイミングでした。苦境から脱するために製鉄所を停止するなど、過剰生産力を抑えて適正なコストに落としました」
「その上、トヨタに対して『ギリギリまでを身を切ったので、認めさせてください』と大幅な値上げを求め、過去最高益を更新します」そうして得た資金で2兆円の買収資金を出す財務体力を作り上げていきました。

「中国のような安く売る勢力に対抗するには、高付加価値の商品を買ってもらう必要を感じていたこと。またアメリカに対して投資をする意欲を持っていたからこそ、今回のチャンスに飛びつく反射神経があったこと。橋本さんの構想力と実行に移すリーダーシップは特異的なものがあると思います」

「私の質問に対して1つも外す答えがないし、はぐらかすこともありません。非常にロジカルで、いくつかの流れをつなげて大きな構想、時間軸で考えていくタイプの経営者という印象でした」
「高付加価値の商品を展開して得た価値を日本に再投資をして、雇用も産む循環を作りたいと橋本さんは言っていました。そういう流れを作ることをできる人はそうたくさんいるわけではない」
一方、橋本会長はある種、“独裁的”だという声も日鉄社内にあるようだと広野さん。「非常に強いリーダーシップだから、当然批判もあっておかしくない。今回の橋本さんが提起したプロセスの中に死角がなかったかは、我々は学ぶべきところがあるはずです」
「強いリーダーに対して、耳の痛いことも言える組織・企業カルチャーを醸成していく上での一里塚として見ることができたら、と思って見ています」