病院で活動する道化師=クラウンは、クリニックとクラウンを合わせた造語で、クリニクラウンと呼ばれます。“臨床道化師”というユニークな呼び方もありますが、医療現場での動き方など知識も必要なため、簡単な役回りではありません。
「すべてのこどもに、こども時間を」提供しようと奮闘する男性の思いに迫りました。

「病気のことを忘れて楽しく過ごせる時間を」

「ノーズオーン」「イェーイ」

赤い鼻がトレードマークの彼らは、臨床道化師・クリニクラウン。入院生活を送る子どもたちのもとを定期的に訪問し、遊びやコミュニケーションを通して、その成長をサポートしています。

道化師としての表現力に加え、子どもの心理や保健衛生などの専門知識も求められるため、認定をうけて活動しているのは、全国にまだ33人しかいません。

そのひとり、ポリタンの名前で活動する伊佐常和さん。普段は南風原町にある、病気の子どもとその家族のための宿泊施設で働いています。クリニクラウンになって18年になりますが、それまでの道のりは、ちょっとユニークです。

伊佐さんは大阪で生まれ育ち、40歳で脱サラ。平日は福祉の仕事、休日は腹話術師という2足のわらじを履いていました。転機が訪れたのは50歳のとき。新聞で「クリニクラウン」の存在を知り、「子どもたちのためにできることがあれば」とオーディションに挑戦。厳しい審査を経て合格したのです。

クリニクラウン 伊佐常和さん
「クリニクラウンというのはその名の通りクラウンなので、芸を見せるのではない。私の腹話術を病院に見せに行くのではない。クラウンという手法を使って子どもたちのわくわくドキドキ感を育てて、一瞬でも病気のことを忘れて、楽しく過ごせる時間を届けるということで、1からクラウンというのを勉強した」

研修を受け、クリニクラウンのポリタンとして、大阪を拠点に全国の病院を回ってきた伊佐さん。2021年4月、実家のある沖縄に移住し、活動の幅を広げようとしています。

2023年12月中旬。この日はこども病院のイベントに招かれました。派手なメイクはせずに、身に付けるものは、明るい衣装と赤い鼻のみ。おもちゃの消毒など、衛生管理は徹底します。

治療のために様々なことが制限される入院生活。会話や遊びの中から、どんなことに興味があるのかを探りながら接します。伊佐さんは活動を続ける中で「笑顔を引き出す」ことよりも、大切なものがあると感じるようになったそうです。