鹿児島県本土最北端に位置する伊佐市。忠元公園の桜や曽木の滝などの観光名所を備え、水田が広がる県内屈指の米どころである。豊かな森林風景、豊富な温泉は地域の人々にとって日々の癒しとなっている。

九州や北海道、さらには海外勤務を経験してこの地に移り住んだ林峻平さんも地元の温泉をこよなく愛するひとり。地域おこし協力隊としての活動を経て、新たな火を灯そうと奮闘する林さんに話を聞いた。

広大な伊佐平野

自分の暮らしは自分でつくってみたい

蒼い山々に囲まれ、稲はまぶしいほどの緑を輝かせて風にそよいでいる。広い田んぼを見渡す小高い場所から、林さんは「ここでーす!」と手を振り、案内してくれた。伊佐市大口渕辺(ふちべ)にある「その火暮らし」の宿は2022年10月にプレオープン。手間をかけて、コツコツとリノベーションした宿の暖簾をくぐると、木をふんだんに使った内装、かまどと薪ストーブが旅人を迎える。カッコいい!そしてどこか懐かしい。壁には共にこの宿を作り上げてきた人たちとの写真が飾られている。

「宿のできは60点くらいですかね...」と林さんは謙遜するが、DIYのメーカー賞を受賞し、雑誌の表紙を飾るなど、なかなかの仕上がりだ。大工仕事は独学で覚えた。「とりあえずやってみる。やってみた上で職人さんにお願いしたり、一緒に作業して学ばせていただくこともあります。できることなら自分の暮らしは自分でつくってみたいな、と」。伊佐市に移住した理由もまさに「ほかにない、手づくりの人生」を求めてのことだった。

宿では囲炉裏や薪ストーブも楽しむことができる