隠れた才能は意外な場所に・・・ "書家"として独立した人も

白舟書体は、「鯨海酔候」のヒットを受け、更なる発掘を続けたのだという。

ーーその後はどんなところで書き手を見つけたのですか?

白舟書体 丸岡さん
「印象に残っているのは、割りばしで絵手紙を書く『メガネ屋さんのご主人』。アルコールが入ると筆のすべりが良くなる『お好み焼屋さんの女将さん』。どちらも伝統と斬新さを併せ持つデザインで、いまも幅広い分野で重宝されているフォントです」

ーーすごいですね。一体、先代はそんな才能をどうやって見つけたんでしょうか?

「ほとんどが近所の方たちや、友人からの紹介です。中には、弊社で出荷や事務を担当していたパート社員の文字を採用したこともあるんですよ。書道経験があるというのでお願いしてみたら、ペンキのハケでユニークな文字を書いたもんですから。彼女はその後、"書家"として独立してしまいました」

ーー隠れた才能が意外にも住み慣れた街の中に溢れていたということですか?

「そうなんです。でも、意外というか、多分当時はパソコンもさほど普及しておらず、遊び心に溢れた文字が、先代の周辺だけでなく、社会に溢れていたんじゃないかと思います」

ーーだとすると、紙に文字を書くことが激減した現在は、味のある文字の発掘は難しくなっているでしょうね…。

「確かに文字を書く人が少なくなっていますよね。我々は手書きの文化を守るためにも、文字を後世に残すことは必要な取り組みだと考えています。

手書きの文字が減ってきているとはいえ、まだまだどこかに考えもつかない書き方をする人や、見たことのない面白い文字を書く人がいるはずです。

デザイン筆文字の肝は「遊び心」です。我々はそのような文字を見つけて全く新しいデザイン筆文字でユーザーを驚かせたいと思っています」

先代の、ちょっとしたひらめきで筆文字のバリエーションがぐっと広がった「デザイン筆文字の世界」。手書きベースならではの味わい深いその文字は、我々の日常の暮らしにさらなる彩りを与えてくれるのだろう。