街の看板や、商品に使われている味のある毛筆風の文字。「書は人なり」とはよくいうが、これらの文字の起源にも、味わい深い人びとの姿があった。

隠れた才能を発見 酒屋さんのご主人が書いた文字をフォント化したら大ヒット!

デザイン筆文字」というジャンルのフォントを聞いたことがあるだろうか。筆文字風の字体で、その特徴は、文字の持つぬくもりや味わい深さだ。

このフォント、パソコンなどを駆使して業者が作っているのだろうと思ったら、実は意外な人たちによって描かれていることもあるのだという。

フォントを作成する際にはベースとなる文字が必要になる。丸亀製麺の看板文字などで知られる、筆文字フォントの最大手「白舟書体」では、すべてのべース文字が人の手によって生み出されてれているのだという。多くの場合はデザイナーによって作成されるそうだが、中にはプロではない人たちの文字もあるのだという。

白舟書体 丸岡さん
「フォントを作成する際には通常、専門の書家さんなどに文字のデザインを頼みます。でも、白舟書体のデザイン筆文字シリーズ第1号のフォント「鯨海酔候」は、実は酒屋さんのご主人に書いてもらった文字なんです」

ーーなぜ酒屋さんのご主人が手がけたのですか?

白舟書体 丸岡さん
「私の父、先代の丸岡雅憲が行きつけにしていた串カツ屋さんがあるのですが、そこでメニューに書かれていた文字に父は目を奪われたんです。なんて味のある文字なんだと」

ーー行きつけの串カツ屋さんですか…?

「はい、それで、聞けばなんと、お酒を仕入れている酒屋さんのご主人がサービスでその文字を書いてくれたというんです」

ーーそれで、酒屋さんにベース文字を頼んだんですか?

「当時、1990年代はパソコンが一般家庭に普及し始めたころで、弊社では手書き文字をベースにした楷書や行書のフォントを開発していました。

しかしながら、その酒屋さんの文字は、楷書でも行書でもない、独特の温かみや人情味のある、これまでのフォントには無いものだったんです。

『これからパソコンが様々なシーンで使われるようになれば、個性豊かな筆文字フォントの必要性が高まるはず』と確信し、酒屋さんのご主人を口説いて、フォント化しようと思いついたのです」

完成したフォント「鯨海酔候」は、当時、他のメーカーでは見たことのない文字だと評判になり、飲食店の看板やスーパーの商品POP、大手表札メーカーなどに使われるなど、瞬く間に大ヒットしたという。