水がない、水が 想定外だった後半戦

歩いては足を回復させ、ジョグ程度で走るを繰り返し、平和祈念公園を通過したのは制限時間4分前の12時11分だった。私は「前半の段階でギリギリだったら、完走なんてできるか…」。溜まる疲労に明らかに元気がなくなる嘉アナ。後半戦に挑むにあたりプラス要素は何一つなかった。

後半のレース早々に、足取りが重くなる嘉アナ。言葉数もかなり減っていた。彼の体の状況を聞いていいのか、判断が難しいところだったが、青ざめ始めた表情を見ると安全確認のためにも意を決して質問を投げた。

島袋ディレクター
「大雅、どう、足大丈夫?問題なさそう?」

恐る恐る投げた質問に想定を上回る回答がきた。

嘉アナ
「剛さん、もうダメ…かも、ダメ…ですかね」

弱々しい言葉がこぼれた。嘉大雅のNAHAマラソンは21キロで終わりー、そう決心して私は本社に電話をかけた。その最後の姿をネットで生中継につなぐためだった。

応援してくれた人、そして現在の嘉アナの様子を気にしている人に伝えないといけない、何よりも自身の挑戦を自らのリポートで閉めるべきだと思ったからだった。

島袋ディレクター
「すみません、大雅、ダメです、リタイアですね。もう無理って言ってます」

本社
「まじか、じゃあ中継つなぐから、準備しておいて」

短いやりとりのあと、スマホを手に取り、中継のスタンバイ。本社からキュー(しゃべり出す指示)がきた。

嘉アナ
「はい、嘉です。今、私は中間制限地点を越えて、およそ21キロあたりを走っています。かなりきつくなってきています。ほかのランナーのみなさんも歩く姿がふえてきています」

「あれ、なんか声に張りが出て、顔色が戻った?」カメラを向ける私は画面越しの彼を見てそう思った。

嘉アナ
「もう少しすると、下り坂が始まります。下りといっても注意が必要で、ペースを守りながら走りたいと思います、ここからもがんばりまーーーす!」
本社
「えっ、走るんかい!」
島袋ディレクター
「いや、ダメっていってましたよ、さっきまで」

心が折れかけた彼に火をつけたのは生中継という華やかな舞台。「お前はスターかよ」と思わず私も元気になった。本当は「やめるんじゃなかったの?」と小言を言ってやりたかったものの、それは野暮だと思い「んじゃ後半頑張りましょうか」とだけ伝え、軽くなった足を前に進めた。

そこから、何度かの中継、そしてランナーからの声掛けをうけて心の充電をしていた嘉アナだったが、ここからは体に問題が出始めた。糸満の沿道には給水できるポイントが前半と比べてかなり少なく、民家も少ないことから沿道からの差し入れも限りがあり、水分不足に陥った。

嘉アナ
「水欲しいですね。あっ、あの沿道の人に聞いてみます」

水が飲めない時間がどれくらいあっただろうか、正直あまり覚えていない。嘉アナにできることは、“ただ耐える”ことしかなかった。水分不足、塩分不足により、足はさらに痙攣しかけ、吹き出す汗はべたべたに。言葉を交わすこともなく、思考を停止させ、どうにか水がある地点までたどり着こうと、嘉アナと私は25キロ地点を超えて、糸満市真栄里の県道256号線に出てきた。

そこからは声援も増え、私設エイドもずらりと並び、やっと水を飲むことができた。

嘉アナ
「やばい、水がこんなにうまいなんて」

思わず出たこの言葉、彼の本心が漏れ聞こえたようだった。