金丸元副総裁は脱税事件で認定された「日債銀ルート」の「ワリシン」とは別に、夫人が取引をしていた「岡三証券ルート」で「ワリコー」も購入していたことが明らかになった。
そして、東京佐川急便事件の捜査が身に迫ってきたことに危機感を抱いた金丸は、脱税の発覚を恐れて「ワリコー」約10億円分を現金化して隠すことを決めた。そしてこの「現金10億円」について、金丸の長男は「山梨の親戚Mに預けた」と供述した。しかし、特捜部が確認したところ、親戚Mはあろうことか、怖くなって別の石川県金沢市の親戚Iに預けたというのだ。
特捜部の捜査はさらに続く・・・・
<全10回( #1 / #2 / #3 / #4 / #5 / #6 / #7 / #8 / #9 / #10 )敬称略>
◆金沢地検の「仲間」に依頼

五十嵐特捜部長が甲府地検の川崎和彦検事より「現金10億円が山梨から金沢に転送されている」という報告を受けたのは、夜11時頃になっていた。五十嵐は迷うことなく、すぐに金沢に検事を派遣して、一刻も早く確認して、差押えすることを決めた。
金沢には「特捜の仲間」たちがいたからだ。当時、金沢地検を率いていた神出兼嘉検事正(16期)は、関西検察のエースと言われ、大阪地検特捜部長も経験。特捜部の捜査には非常に理解があった。また金沢地検のナンバー2の宮沢忠彦次席検事(25期)は、1年前に東京地検特捜部から赴任したばかりで、五十嵐が信頼している元部下だった。
深夜になろうとしていたが、五十嵐は、神出検事正の官舎に直接電話を入れ、既に就寝していた検事正にこう頼んだ。
「宮沢次席検事を金丸の親戚I宅に派遣して、現金入り段ボール箱を任意提出させてもらえませんか」
◆屋根裏からダンボール4個を発見
神出検事正はすぐに了解して、宮沢次席検事を、金丸の金沢市内にある親戚I宅に向かわせた。
宮沢次席は役所にあった台車を乗せ、検察事務官と2人で車を走らせた。そして時計の針が11時30分を指したころ、現場に赴いた宮沢次席検事から五十嵐に報告が入る。