「天井裏の物置部屋から段ボール4箱が見つかりました。すべて任意提出してもらい、ひとまず金沢地検の宿直室に運び入れました。段ボール箱には大きな黒字でそれぞれ「3」「3」「3」「1」と書かれています。段ボールの隙間に懐中電灯をかざしたところ、中は札束と思われます」
宮沢らは高揚した様子だった。親戚I宅から段ボール4個の任意提出を受け、台車で車に載せて無事に金沢地検に運び込む。

東京の五十嵐はすぐに、金丸の長男を取り調べた山本検事に対し、翌日できる限り早く金沢地検に出張するよう命じた。山本は羽田空港から朝一番の8時すぎの便で、「小松空港」に飛び、空港から高速道路を走って金沢地検に直行した。

小松空港(石川県)
金沢地検

◆札束を部屋じゅうに並べた

山本は金沢地検に到着早々、宮沢次席検事室へ入った瞬間に、衝撃を受ける。
「ガムテームでぐるぐる巻きになったペリカン便のダンボール箱があった。札束の厚みで段ボールが膨れ上がっていた。札束がパンパンに詰まっていた。開封前の段ボールの状態から順次、記録のため写真を撮り始めることにした」(山本検事 現・弁護士)

山本らは金丸の親戚Iを立ち会わせ、地元の北国銀行の行員の協力で、段ボール箱の中の現金の枚数の確認をはじめた。まずガムテープを剥がし、1000万円ずつの束になった、いわゆる「レンガ」を取り出した。そしてさらに100万円づつの帯封のついた札束を部屋じゅうに並べた。

紙幣を数えた結果、「3」と大きな黒字の油性ペンで書かれた段ボールが3箱、中身はそれぞれ「3億円」ずつ入っていた。同じように「1」と黒字の油性ペンで書かれた段ボール1箱には「1億円」、合計「10億円」の紙幣が確認された。
手書きの油性ペンの数字は、金丸からの指示を受けて現金を運んだ岡三証券のA役員が、元麻布の金丸邸に向かう前に、段ボールに記載したものだった。特捜部はようやく不正蓄財の「たまり」に辿り着いたのだ。

◆紙幣を数えるのに3時間半

このとき、現金の枚数確認に使われたのが、北国銀行が持参した「現金自動勘定機」だった。大量の紙幣を自動で計算するために3台が稼働していた。しかし、再三再四、この「現金自動勘定機」がオーバーヒートして不具合が起きる。

「逐一、写真を撮りながら現金入りの箱を少しずつ開き、札束を広げていった。途中で北国銀行の札束勘定機3台のうち1台のモーターがおかしくなり、紙幣の枚数確認が終了するまで3時間半もかかった・・・」(山本検事 現・弁護士)

北国銀行にとっては、これまで日常業務では扱ったことのない多額の現金を、集中的に数えたためだったからだ。なにしろ紙幣は「1億円」の重さが約10キログラム。仮に「10億円」の札束を積み上げると10メートルの高さになる。山本が目にしたのは重さ約100キロの「10億円」の現ナマである。

特捜部の検事は日常的に億単位の事件を扱っているが、それは帳簿の上の数字であり、現実に大金を目にする機会は滅多にない。現金10億円は、もちろん山本にとって初めて見る大金であり、忘れられない光景だった。

「当初、五十嵐さんから現金を段ボール箱ごと、車で東京に持ってくるようにいわれ、とても無理だと思った。北国銀行の行員に相談したところ、ジュラルミンケースを用意してくれたので、2億円ずつ、とりあえず5つのジュラルミンケースに詰めた」(山本検事 現・弁護士)

一方、五十嵐は上司にあたる東京地検の増井検事正に状況を相談したところ「すでに時効が成立している現金であり、金額を確認すれば足りるので、事故があった時のリスクを考え、その場で返した方がよい」との結論になったという。

最終的に「現金10億円」そのものは、その日のうちに金丸側に還付手続きを行うために、北国銀行の地下倉庫に移された。その上で、金丸の意向を受けた長男の妻の指示で、「北国銀行」から妻が指定した都内の銀行に「電信為替」で10億円が送金された。こうして還付手続きはその日のうちに実行され、金丸側に返金されたのだ。

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