誰より自分が、計り知れない衝撃を受けているなかで、中村や、「密会」の事実を中村に自供してくれた「S役員」のことを心配してくれていた。その心遣いが身に染みたと振り返る。
中村は「S役員にはまだ話せていません、何と言っていいか・・」と答えるしかなかったが、「S役員」への対応について、北島は親身になってきめ細かい、冷静なアドバイスをくれたという。中村は北島のアドバイスに救われ、何とか苦しい局面を乗り切ることができた。
特捜部は第一勧銀弁護団の申し入れを捜査妨害、根拠のない圧力だと受け止め、さらに事件解明にアクセルを踏んだ。そして大物総会屋との「呪縛」を最後まで否認していた、第一勧銀の現職の会長の逮捕、起訴(後に有罪確定)にこぎつけたのである。この事件では総会屋と第一勧銀の幹部11人が摘発され、やがて「大蔵省接待汚職事件」に繋がっていく。
東京拘置所で取り調べを終えて出口から出てくると、北島検事が待っていた筆者に対してぶっきらぼうに「記者もたいへんやな」といいながら、小菅駅近くの居酒屋でホッピーに付き合ってくれた姿が懐かしい。捜査のことは自慢話も言い訳もしない、強い正義感を秘め、最後まで矜持を貫いた検事だった。
TBS情報制作局兼報道局
「THE TIME,」プロデューサー
岩花 光
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