元広島市長 平岡敬 さん
各国の首脳が来て、実相に触れたというのはたいへん意味があったと思います。問題は、ただ来て、花を手向けただけじゃダメなので、これから自分たちの国の核政策、あるいはいろんな政策について、この広島へ来たことがどのように影響するか、そのことをわたしたちは注目していかなきゃいけないと思うんです。自分の国の政策が、広島に来たことによって変わるのかどうか、わたしたちはそれを注目したいですね。

それとですね、「広島ビジョン」というのが出たんですが、これは核抑止力を認めているわけですね。広島の考え方と全く違うわけです。広島は、核廃絶。核兵器を全部認めないという立場に立っています。そういう中で広島に関した広島ビジョンという中で核抑止力を認めると、広島が核廃絶の旗を下ろしたんじゃないかと世界の人たちが思う可能性があるわけですね。そういう意味では、せっかく広島に集まったんですから、やはり核廃絶への道筋、あるいは世界平和の道筋を何か論議してもらいたかった。それは議長が岸田さんですからね。岸田さんが議長としてそういう方向に会議を持っていってもらいたいな、そういうふうにわたしは思いますね。

そういう意味でG7広島サミットは、集まったことは意義があるとしてもですね、中身についてはわたしはあまり評価していないですね。核抑止力を認めてしまったという。しかも、それが広島ビジョンという、広島という名前のもとに認めてしまったということは、たいへん世界の人に誤解を与える可能性があると思います。広島の原点というのは、やっぱり核廃絶と世界平和の確立ですから、とにかく戦争をやめるという、そういう方向で各国首脳が議論をしてもらいたかった。それはやっぱり議長の手腕が問われるわけですよね。結局、アメリカのなんか思惑どおりといいますか、その筋に従って会議が行われたような感じがしてしょうがないんですね。これは、日本の主体性に関わる問題ですからね。例えばバイデン大統領が日本の玄関口からじゃなくて、岩国(基地)から入ってきたと、こういうことに対して非常に不愉快な思いをわたしは持っているんです。ですから、日本の主体性っていうか、主権の問題をもう少ししっかり考えていけば、岸田さん自体も日本が独立国であるならば、G7各国をリードして、やっぱり広島の持っているような世界平和・核廃絶をやっていただきたいな。そのへんがちょっともの足りなかったというふうに思います。

田村友里 アナウンサー
SNSで事前に質問を募集したんですけど、15歳の方から「なぜ核兵器は持ってはいけないのですか? ほかの国からの攻撃の抑止力になると思う」という質問をいただいています。これについてはどう思われますか?

元広島市長 平岡敬 さん
広島・長崎の78年前のあの現実を考えたらね、決して核兵器は持ってはいけない。1つの国が持てば、相手の国も持つ。際限なく核軍拡競争が起こるわけですね。それはやっぱり避けなきゃいけない。核兵器があれば、もし、それが使われれば地球の破滅、あるいは人類の滅亡につながる。そういう想像力をぜひ働かせてほしいと思いますね。

田村友里 アナウンサー
よく日本政府は核廃絶のために橋渡しをしたいということを言うんですけれども、これはできていると思われますか?

元広島市長 平岡敬 さん
橋渡しはできていないですね。わたしはむしろ核廃絶のために岸田さんが旗振り役をやってもらいたいという具合に思いますね。橋渡しじゃなくて、核廃絶への旗振り。それをわたしも期待したいと思います。

田村友里 アナウンサー
広島市の松井一実市長の平和宣言でした。平岡さんも市長時代に平和宣言をされてきたわけですけれども、ことしの平和宣言についてはどのように感じられましたか?

元広島市長 平岡敬 さん
核抑止論が破綻しているという。これ、全く正しいですね。そうであるならば、その後に「具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないでしょうか」じゃなくて、やっぱり「必要がある。早急に始めなきゃなりません」と、そういう強い決意を示してほしかったなというふうに思います。

田村友里 アナウンサー
岸田総理のあいさつには何を期待しますか?

元広島市長 平岡敬 さん
やはり核廃絶です。本気でやってもらいたいなという気がしますね。ただ岸田さんは核抑止論を信奉しているというか、それをいちおう掲げていますよね。これはやっぱり広島の願いと違うわけですから。どういうあいさつになるかわかりませんけれども…

田村友里 アナウンサー
岸田総理のあいさつをどのように聞かれましたか?

元広島市長 平岡敬 さん
非核三原則を堅持しながらと言って、一方で核抑止力を肯定し、そして核の傘に依存しているって、たいへん矛盾していますよね、これは。もう1つは、核軍縮の機運に向けた国際社会の機運を高めることができたって言うんですが、高まっていないですね、核軍縮について。それともう1つは、核兵器条約禁止条約への言及がなかった。松井市長は核兵器禁止条約に調印しろと言っているのに、それに言及しなかったというのは、ちょっとすれ違いを感じますね。

元広島市長 平岡敬 さん
(知事の)湯崎さんが、はっきりと核抑止論を否定しているというのは、非常に力強い否定の仕方でよかったですね。ですが、一方で、やっぱり広島ビジョンについて少し言いよどんでいるところがあったというふうに感じましたね。つらいところでしょうね、知事としては。全く広島ビジョンを否定するわけにはいかんし、そして、そうは言いながら、やっぱり核抑止論を松井さん以上に厳しく批判したというのは、否定したのはよかったと思います。力強かったですね、これは。わかりやすかった。

田村友里 アナウンサー
総理のあいさつについては、もう一歩踏み込んでほしかった点などありましたか?