「予知できない」から始まった「臨時情報」

そもそも、この臨時情報は、「地震予知はできない」と研究者らが判断したことから始まります。過去、日本では、研究者の間で地震の予知が可能だとされていた時期がありました。国は東海地震(駿河湾付近を震源とする南海トラフ地震の一部)について、予知を前提とした対策(「大震法」に基づく)を行ってきました。

それが、1995年に阪神・淡路大震災が、2011年に東日本大震災が発生し、多くの犠牲者がでたことなどを受けて、国民から「予知研究」への批判の声などが噴出。研究者の間などでも様々な議論が巻き起こり、「地震予知はできない」という結論をださざるをえない状況となりました。

しかし、日本に国難を及ぼす可能性が高い「南海トラフ地震」の発生が確実に迫ってきている中で、これまで地震予知研究などで培ってきた科学的知見を、少しでも防災・減災に引き続き役立てようと、考えられたのが、この「臨時情報」だったのです。地震の発生を事前に知る「予知」に代わって、地震の発生に結び付くかも知れない「前兆(=前震やゆっくりすべり等)」現象をとらえようという試みなのです。

それ自体は評価できることですが、私たちはまた、当分の間、国の“小難しい施策”にお付き合いしなければならないようです。「臨時情報」の正体を正しく知ることは大事で、そして何よりも、地震はなんの前触れもなく、突然、起きることが多いことも、けっして忘れてはいけません。

◎太田尚志 元JNNマニラ支局長。阪神・淡路大震災で自身が被災して以来、地震・火山などの災害取材を継続。MBSラジオ「ネットワーク1・17」やJNN地震特番のプロデューサーなどを歴任。日本災害情報学会会員。

「南海トラフ地震~その時の備え~」(リーフレット)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nteq/leaflet_nteq.pdf

(詳細参照:内閣府防災情報のページ「南海トラフ地震臨時情報が発表されたら!
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/rinji/index3.html)