■「欧米の価値観に従うのはごめんだ」…プーチン的思考とは
--2か月以上たってわからないのは、「なぜ侵攻したのか」。プーチン大統領の発言を振り返りますが、クリミア併合直前2014年3月、今に至る始まりの発言として「ロシアは欧米との対話を目指した」「しかし次々と騙された」「ロシアはもう限界」だと言っています。そして今年の2月24日、ウクライナに侵攻した日に「NATOからロシアは歴史的に見捨てられたのだ」と。豊島さんがこれらの発言に注目する理由は?

豊島:
今回の侵攻の理由についてプーチン大統領は主に2つ挙げている。一つは安全保障上の問題でNATOの不拡大。もう一つは「歴史的領土」と述べたウクライナと一体化するのだと。そしてナチスの傀儡政権であるゼレンスキー政権を転覆するということ。プーチン大統領はこのように西側にもわかる言い方をしていますが、実は2014年から今に至るまでまったく同じことを言っていて、その意図を汲めば「欧米の価値観に従うのはごめんだ」ということを言っていると思います。
つまり西側の協力はもういらないとばかりに捨て身でやってきている感じというか、プライドをかけて捨て身で自分の思いを何としてでも遂げようとしているのではないか。2014年から最近の演説まで、プーチンのロジックを説明すると「ロシアは欧米の諸国に誠実に付き合ってきた」のだが「NATOは勢力を拡大しないと言いながら拡大してきたじゃないか」と。去年12月に不拡大条約を欧米は反故にしたと。「無配慮かつ軽蔑的な態度をとってロシアを侮辱してきた」と言っています。その上で「私たちの歴史的領土はウクライナである」と言っていて「NATOがウクライナのネオナチを支援しているので自己防衛をする」ということでした。だいたいロシアが外に攻め込む場合、こうした物言いが変わっていないことが特徴的。プライドをロシアが甚く傷つけられたので、これを回復するのだということなのではないか。さらに問題なのは、プーチン大統領のこうした姿勢や思いが、欧米側から見ると国民に対するプロパガンダだ、という言い方になるのですが、実はロシア国民にとっては、プーチン大統領のこうした姿勢に共感してしまう国民性となっている。それがプーチンの支持基盤となっているところにあると思います。
--プーチンの言い方で、よく国内向けに「ナチス」という言葉が出てきます。それはなぜでしょう?違和感がありますが

豊島:
第二次大戦をロシアは「祖国戦争」とか「祖国防衛戦争」と言っています。ナチスに攻められた結果、一説によれば死者は2000万人以上と言われています。大変な数の人たちが亡くなった。自分たちのいわば、おじいさん世代が血を流して守って成立したのがこの国なのだ、という思いが、国家的なアンセム=国民の大きな物語になっている。「ナチス」という言葉を使うことで、国民が想起する「敵」が非常にクリアになるというか、当時の記憶がよみがえるのでしょう。ロシアには100万以上の都市が少なくとも10都市ありますが、各都市に広大な戦勝記念公園というものがあります。そこに子供たちが休みになるとおじいさんたちがどう戦ったのか、パノラマみたいなものを見たりして、小さいころから自分たちロシア人がいかに外敵から攻められて、いかに被害を受けてきて、守ったのかという物語を聞いて育つ。こうしたことが、9日の軍事パレードでプーチン大統領が演説でも言っていますが、「自分たちは侵攻するしかなかった。攻められる国なのだから仕方ないのだ」というロジックにつながっていくと。このように「ナチス」という言葉が国家防衛という意味合いで国民に響くということで、彼は「ナチス」という言い方をしています。