闇は、意外な場所に潜んでいる。たとえば、子どもたちの歓声が響くプロ野球のスタジアム―そんな“最も健全であるはずの場所”でさえ。
2000年代初頭、甲子園球場や東京ドームの外野席の一角では、刺青をした男たちが酒をあおり、チケットを売りさばいていた。
「私設応援団」を名乗るその集団の背後にいたのは暴力団だった。球場は暴力団の資金源となり、トラブル処理すら“裏社会のボス”が采配を振るう異様な構図が出来上がっていた。
この深刻な事態に立ち向かったのが、一人の“元特捜検事”である。東京地検特捜部長として数々の政界事件を指揮し、「割り屋」「落としの熊﨑」と呼ばれた熊﨑勝彦(24期)だった。
検察庁退官後、熊﨑が身を投じたのは、意外なことに「暴力団排除」に揺れるプロ野球界だった。その道筋をつけるきっかけとなり、右腕となったのが、かつて横浜地検で机を並べたヤメ検の猪狩俊郎弁護士(33期)である。
二人の再会は偶然ではない。熊﨑がまもなく退官を迎えようとしていた頃、プロ野球界はかつてない危機に沈んでいた。
「クマさんの力を借りるしかない」
猪狩の言葉をきっかけに、かつての師弟はプロ野球を揺るがす“浄化作戦”に向き合うことになる。球団や警察の足並みが揃わぬ中、矢面に立ち続けた猪狩弁護士と、混乱を収拾するために招かれた熊﨑元特捜部長。
二人はなぜ、プロ野球という舞台で再び手を組むことになったのか―。
これは、プロ野球の未来を守るために“火中の栗を拾った”二人の法律家の知られざる闘いの記録である。関係者の証言や取材記録をもとに、球界の闇に挑んだ師弟の軌跡を描く。















